スキンシップ

午前の授業だけ出て昼休みから風紀の方へ行っていた今日。昼飯もろくに取る暇が無く、もう葵君達と喋られないだろうと思っていたのだが、風紀に用がある藤澤君に付いて中庭まで来るというメールが届いた。ならばという事で休憩の合間に向かいベンチで待つ。そうしてぼんやりしている内に、前日のあれやらこれやらがチラチラと脳裏を過って頭を抱えたくなってきた。


「ゆーまー!やっほー……って、……どうかした?」

「へ、あ、いえっ。どうもしてませんよっ?」

「いやいや、ウソつくなし」


ちょっと魂が抜けかけていた所に掛かった声へ顔を上げれば慌てた様子で葵君達が駆けてきた。ボーッとし過ぎたと頬を叩いていると葵君が心配を露に見上げ、その隣りで怜司君が呆れた顔をする。更に後ろにいた藤澤君も訝しそうな様子で眉を顰めた。


「顔色が悪いが……体調でも悪いのか?」

「そ、う……ですか?そんな事無いですよ?」

「無いことなくない!」


笑って誤魔化そうとしたのだが、目尻を吊り上げた葵君が睨み上げてきてたじろぐ。おまけに他の二人もジッ、と見詰めてきて。流す事の出来ない雰囲気に耐えきれず、視線を逸らして言い訳をしどろもどろに口にした。


「えっと……ちょっと、寝る時間が遅かったんで、それが今になって効いてきたかな、みたいな?」

「そんなに遅くまで勉強してたのか?」

「あ、いえ。課題は早めに終わりました」

「ふむ、ならば何か悩みがある、か?」

「まぁ風紀やってりゃなぁ……」

「やっ、あの、」


しまった。勉強のせいにしておけば良かった。なんで違うって言っちゃったかな、俺。
遅くまで起きていた、というか眠れなかったのは本当だけど短いながらも睡眠自体はかなり良質な物を取れたと思う。夢すら見ずにグッスリ熟睡。でも、熟睡途中で起きるのはただ睡眠が短いだけの時よりちょっとしんどく怠い、みたいなそんな状態。
それくらいなら今までもあったし、放課後のこんな時間まで引き摺るもんじゃない。たぶん、皆が来る直前まで考え込んでいた『悩み』という奴が表に出てしまっていたんだろう。昨日眠れなかった原因でもあるそれは、……ちょっと話さなきゃいけないんだけど話したくないというか。


「話せない事もあるだろうが……何かあったのならば遠慮無く相談してほしい」

「そんな大した事では……」

「大したコトないんならオレらに話してもイーじゃん?」


な、と明るく肩を叩いてくる怜司君の笑顔が眩しい。頼り甲斐のありそうな様子が今はとてつもなく心苦しかった。どうしようと考えていると、クイッと裾を引っ張られて視線を下げる。パッチリと目が合った葵君はギュッと手に力を込めると引き結んでいた口を開いた。


「ぼくら頼りない?」

「そんな事無いです」

「じゃ、……ひょっとして、お話すんのとか、いやになった?」

「いえそんなまさか!」

「……でもゆーま、さっき抱きつくの、……いやがった……よね」

「へっ!?いっ、嫌がっては、いません、よ」


首を振って否定するが冷や汗が背を伝う。あぁ、気付かれていたか。
嫌がったなんて事は無いのだが、いつも通り飛び付こうとした葵君にうっかり身構えてしまった。それは自分に後ろめたい事があるだけで、決して葵君を拒否した訳じゃないんだけれども。
失敗したと焦る俺を逃がさないとばかりに葵君が詰め寄る。


「じゃあ、なんで後退ったの?」

「う……」


今にも泣くのを我慢した目に見詰められ、結局根負けした俺はえっと、と口隠りながら重い口を開いた。


「昨日、ですね」

「うん」

「ちょっと、寝惚けてて、」

「うん」

「……うっかり、いつも葵君達とやるノリで……」

「うん」

「…………お世話になってる先輩に……抱き付いてしまって……」

「ぶふ……っ!」

「うぉっ!?いーんちょー!?」


突然吹き出したような音に目を向ければ口を押さえた藤澤君が肩を震わせ俯いていた。どうしたのかと怜司君がその背を擦る。何でもないと言う藤澤君を落ち着かせつつ怜司君がこちらを向いて首を傾げた。


「あー、と。まさかそれでキモいとか何か酷いコト言われたとか?」

「え、あ……いいえ、そういうのは無くて。謝ったら許してくれましたし」

「ふ、く……っ。へ、へぇ……っ」


口と腹を押さえ相槌を打つ藤澤君の様子が気になるが葵君が先を促してきたので話を続けた。現場を他の人に見られて誤解を受けたー、というのはまた説明が大変そうだと思い伏せる事にする。兎に角、一日悩んだ結論として。


「寝惚けて無意識にこんな事してしまうなら、あんまり、こういうの日常的にしない方が良いのかなー……とか、考えてしまって……」

「え!ぼくともっ?」

「あーうー……はい」

「、はぁ……。あぁ。つまり、抱き付き癖に悩んで寝不足になった、という事か」

「えーっと、……はい」


抱き付き、じゃなくて元は抱き付かれ癖だと思うけどまぁそんな所だ。
怒気とか嫌悪とかそういうのは無かったけれど失礼だったと思うし、何より隊長さんに誤解されたし。最後には余計な気まで使わせてしまったし。悪気が無くても、いや無いからこそ質が悪い。
無意識な行動をどう止めれば良いかなんて分からないから普段からやらないようにすれば良いかな、と考えてそう二人に言うつもりでいたんだけど……。なんか、葵君が想像以上にショックを受けてて、どうしよう。そんなに衝撃受ける事なのこれ。



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