日頃の慣れで

パチッと目を開いて、固まる。

自分の部屋と違う内装に一瞬パニクり掛け、直ぐに先輩の部屋だと思い出してはぁっと息を吐いた。
先輩の帰宅を待つ間やっていた課題の途中で居眠りしていたらしい。手元のプリントは後少しという所で謎の文字が綴られていた。何と書こうとしていたのか読み解くが全く意味が分からず問題を読み直す。念の為にと他の埋まっている解答欄を確認すれば数か所とんちんかんな答えが記されていた。がっくりと項垂れて紙面に消しゴムを押し当てる。寝惚けたにせよこれは酷い。

今日も疲れていたしなぁ、と考えた所でガチャッ、と鳴った音に顔を上げる。顔を向けた先で開いた扉から先輩が入ってきた。


「おかえりなさい」

「ただいま」


目を細め笑う先輩に笑い返しテーブルを片付ける。消しカスを適当に手で払い掛け慌ててゴミ箱を引き寄せた。台拭きで綺麗にしていると荷物を下ろしてきた先輩が戻ってくる。


「お疲れ様です」

「ありがとう、俺は大丈夫……だが」


小皿を置く手を止め付け加えられた反語にん?と目を向けた。しゃがんで目線を合わせた先輩が困ったように微笑む。


「お前は眠そうだな」

「バレましたか……」


苦笑していると先輩の手が頭に乗る。そのままサラサラと髪を梳かれ、さっきの眠気がぶり返してきた。


「先輩も、眠か、ですよね」

「まぁ、少しな」

「早く、食べて、休まんと、」

「そう慌てなくても良いさ」


ウトウトするのを払おうと口を動かすのだが眠いものは眠い。まだ飯食っていないのに。先輩の部屋なのに。
ぼやっとした頭で一先ず夕食を済ませて帰るまでは起きとかねばと考え耐える。しかし撫でる手は確実に睡魔を強くしていて。だからって気遣いでの行動を跳ね退けるのは失礼だし、何か離しがたいし。
兎に角、疲れでこうなっているのならどうにか体力を回復、若しくは、充電……。


「げんき……」

「うん?……ん?」


俯き気味だった頭を上げ先輩を見る。どうしたという表情を浮かべた先輩に向き直り、少し重い腕を伸ばした。
伸ばした手を先輩の両脇を通して背に回し、ギュッと力を込める。勢いに押されたのか先輩が尻餅をついてしまった。謝罪と痛くないかと聞かなければならないのに、肩口に額を預けた事で考えが霧散した。凄く、安心する。

あまりの心地好さに更に眠気が増しただなんて本末転倒な状況も忘れ制服に顔を押し付ける。ふわふわとした心地にそのまま寝入ろうかと力を抜き掛けたが戸惑った声に引き留められた。


「よし、ざと?」

「ん、……?」


普段より格段に近い場所から聞こえた声に肩を震わせる。眠いのに。何なんだ。
心の中で眠れなかった事への悪態を吐きぼーっとしながらゆるゆると頭を離す。半分眠り掛けのまま先輩の驚いた顔を見て、漸くハッと目が覚めた。
ヤベッ。俺は葵君達ので慣れちゃっていたけど、男に抱き付かれたら普通ドン引くわ。
サァッと血の気が引くのを感じる。これは……もう、なんて言うか。


「うあ……の、すみませ、っ。え、えぇっと、ですね。その、い、今、友人の間の流行りと言いますか。元気を充電とかで、です、ね」

「……充電?」

「は、はいっ。ほら、人って触れ合う事で元気が出たりとかストレス解消出来たりとか、」

「あぁ……」

「疲れ取れたりとかっ!そんな感じで……!」

「…………」


アワアワと必死に言い訳を並べ立てるが頭は回っていない。自分が何を言っているかも分からないまま勝手に動く口に翻弄される。熱くなったり血が引いたりとグラグラとする思考の最中、て言うか、離れなきゃと今更気付いた。


「っすみませ、」

「取り敢えず、落ち着け」


後ろに引こうとした体に腕が回され元の位置に戻る。先輩の足の上を跨ぐ形で座り込むと軽く力を込めて抱き締められた。その状態で背を撫でられほっと力を抜く。先輩の様子的に、たぶん嫌悪とかそういうのは感じていないようだ。良かった。



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