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首を傾げていると早くも復活したらしい幾島君がガバリと掴み掛かるように起き上がった。


「えっ?何?マジ?マジで吉里?」

「こんなホケッとした顔の風紀、他にいると思うか?」

「……ほっ?」

「いないな」

「ちょ、東雲君……!?」


山本君の発言にも物申したいがそれまで木の影で様子を窺っていたくせに間髪入れず肯定してきた東雲君にも突っ込みを入れたい。フォロー無しかよ!……て言うかやっぱり顔は憶えられていなかったんだなー……。
一人黄昏ていると、悲しい事に納得したらしい幾島君が東雲君を目にした瞬間飛び上がるように悲鳴を上げ山本君の腕を掴んで引っ張った。


「オイ、ちょ、こら、ハル。いてぇっつーの」

「何で冷静なの!?早く逃げようよ!他に風紀いるんじゃんか!」

「……何か風紀にバレたら困るような事でも企んでいたのか?」


幾島君の言葉に東雲君が目を眇て威圧する。それに怯みながらも瞳の険を強めた幾島君は噛み付くように声を荒げた。


「んな事するか!風紀はロクなのいないって新聞部の先輩が言ってたんだよ!」

「はぁっ!?なんだそれ……っつか待て。お前新聞部、」

「ほら、そうやってすーぐ凄む!力でどーこーしよーとかマジ引くわー」

「っ、お前……!」


近付いてきた東雲君を相手に及び腰ながら喋る幾島君は段々気が高ぶってきたのか攻撃的になっていく。そうしてぶつけられる非難に、元来気の長くない東雲君は顔を歪め今にも掴み掛かろうとした。これはヤバい、と咄嗟に東雲君の襟首を掴む。


「東雲君、ストップ」

「ゔっ」

「あ。すみません……」


勢いのまま首の絞まった東雲君の様子に慌てて手を離し謝る。恨めしそうに睨む東雲君を宥めていれば、幾島君も気が削がれた瞬間を突かれ山本君に殴ら……宥められていた。


「ったく……。のっけから喧嘩売りに行ってんじゃねぇよ」

「だって、風紀の奴がー……」

「だってじゃねぇっつーの」


シュンと落ち込む幾島君に山本君の叱責が飛ぶ。なんか、親と叱られた子供のようだ。
緊張が切れ脱力しそうになるのを耐え、文句を言い合う二人に話し掛けた。


「一先ず、状況がよく分からないので詳しくお話を伺ってもよろしいですか?」

「…………」

「……風紀は信用できない、みたいな感じですか?」


困ったように言えば東雲君がバッと振り返ってくる。前回山本君達に出会った時にも感じた事。察してはいても、はっきり言葉と態度に出されたら……まぁ動揺するよね。
不安そうな東雲君の背を軽く叩いて山本君達を見据える。そんな俺等の様子を腕を組んで見ていた山本君はいや、とポツリ呟いた。


「えっ?祥守!?」

「風紀の全員が全員あぁじゃないって事だろ。たぶん」

「でも!だって、みんな言ってるし……」

「吉里見てもそう言えんのか」

「…………」


え。俺?……え?何?
一斉に視線が集まりギョッと身を強張らせる。キョドキョドと落ち着かず其々の顔を見回しているとややあって名前を呼ばれ姿勢を正した。


「吉里から見て昴ってどうだった?」

「皆瀬君ですか?」

「あぁ」


ジッと見詰めてくる山本君に首を傾げつつ、皆瀬君と会った時の事を思い返す。話したのはほんの少しの時間だったけれど。


「噂と違って、良い人そうだと思いましたけど……」


東雲君に話した時と同様、感じたままを正直に言えばそうか、と頷いた山本君は幾島君に向き直る。


「どうだ。今まで来てた奴等とはちげぇだろ」

「……う〜ん、でももう一人の方はわかんないし……。演技かもしんないし……う〜あ〜……」

「……つか一応言っとくけど、俺お前んとこの奴等も信用してねーかんな?」

「えぇっ!?マジ!?」


衝撃を受ける幾島君に山本君が冷ややかな目を向ける。それでもまだ渋る幾島君に山本君は深々と溜め息を吐いた。


「俺としちゃあ吉里らの話も聞いてみてーんだけど。悪い、仲間がこんなんだから」

「……はい、分かりました」

「また……その内、な」


何か言いたそうに身動ぐ東雲君の服を引いて留める。若干申し訳無さそうに頭を掻いた山本君は、また同じように何か言いた気な幾島君とボソボソと話し出した。
良いのか、と小声で囁く東雲君に頷いて答える。どうにか情報を聞き出したいのは山々だが、ここで引き留めても話してくれないなら意味が無い。一応、そこそこ信用は持とうとしてくれているみたいだし、その内とも言っているし、と笑って付け加えれば少しだけほっとした顔を返された。


「……相棒コンビもぇ゙、っふ」

「オラ。帰んぞ」


手を上げて別れを告げた山本君は幾島君の襟首を掴んでズルズルと引き摺り去っていく。どんどん遠くなる背中を見詰めながら、黙りこくっていた東雲君が口を開いた。


「……取り敢えずあの山本ってのが噂と違うってのは俺も分かったけど」

「はい」

「あの新聞部の奴は、副委員長と同じ匂いがした気がする……」

「……あぁ」


それか、と一瞬感じた既視感の理由に納得する。そして思い出す絹山先輩の内緒のお願い事。


「新聞部の動きに注意していろ。と」

「風紀委員で何か不審な事があったら教える事、でしたね」

「新聞部と、……風紀に何か企んでる奴がいるって事か?」

「そう、なりますよね……」


新聞部は元々要注意と言われていたし転入生絡みの情報を辿ると大元がそこだったりするので気を付けなくちゃいけないのは何となく分かる。幾島君の話振りも色々気になる部分はあったし。でも、風紀って……。
否定したくとも先程の警戒しまくっていた山本君達の様子を考えればそうもいかず。


「……あんまり、仲間内で疑ったりとかしたくねぇんだけどな」

「ですね……あ。誰かが風紀と騙っている可能性もありますよ」

「あー」


あんなに嫌悪感たっぷりの表情をさせる程の不信振り。一体彼等と接した風紀委員は何をしたのか。そして新聞部は風紀委員を何と言っているのか。
うーん、と頭を捻りながら寮へ変える道に足を踏み出す。今あった事も絹山先輩に報告かな、と考えているとなぁ、と声を掛けられた。


「他の指導の時も思ってたけどさ。『誰々が言ってた』、みたいな話し多くね?」

「噂と違っている事も多いですよね。ちょっと情報が交錯している気がします」

「噂……噂、ねぇ」


新しく取り出したお菓子のフィルムを引っ張り広げながら呟く東雲君と同じ様に空を見上げて考える。中途半端な情報と疲れた頭ではよく分からないけれど。


「何か、めんどくさそう」

「ですね」


出した結論に二人揃って肩を落とす。始めは皆瀬君が周囲の美形な人達から離れれば徐々に鎮静化していくんじゃないかと思っていたけど、そう簡単な問題では無いのかもしれない。
何がどうして今の状況を作り出しているのかなんてサッパリだけど、もう何でも良いから終わんないかなぁ、と固い肩をグルッと回した。



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