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混乱にこんがらがっている脳内を整理しようと頭を掻く。ゴロリと寝返りを打ち、クッションを弄りながら考え抜いた結果。


「……よう分からんね」
(「……よく分からないね」)

『?なんがわからんと?』
(『?何がわからないの?』)


本気で不思議そうに訊ねられ困る。何がって。ぶっちゃけ全部なんだけど。聞こうにも何からどう聞けば良いのか。言葉にしようとすると次々に問いが浮かんできて。一度座り直し、悩みに悩んでから口を開いた。


「あー。……その先輩は、優奈には友達の好き」

『うん』

「明日香ちゃんには……恋愛での、好き?」

『うん』

「その違い?はどうやって分かるもんなの?」

『ん、と。好きの違いってこと?』

「あー。……かな?」


その先輩とやらはあくまでも妹に好きと言っているのだ。なのに妹は友人の方を好きらしいと言う。断定ではないが確信した口調で言うのが謎だ。クッションを抱えて答えを待つ。


『さっきゆうた先輩の様子とかわかりやすかね。そん人んこつばっか気になったり考えとったり。つい突っ掛かっちゃったり?』
(『さっき言った先輩の様子とかわかりやすいね。その人の事ばかり気になったり考えてたり。つい突っ掛かっちゃったり?』)

「……うん」

『他はー、そん人の為になんかしたくなったり、一緒におるとどきどきしたり幸せだったり。他にもいっぱいあるけど……。んー、ともかく恋心はもっと複雑とよ』
(『他はー、その人の為になんかしたくなったり、一緒にいるとどきどきしたり幸せだったり。他にもいっぱいあるけど……。んー、ともかく恋心はもっと複雑なのよ』)

「……うーん」


訳知り顔で話してる雰囲気の妹に相槌を打ちながら段々と不安になってくる。如何にも妹が好きな恋愛小説を切り取ったような言葉の羅列だがそれは見ていて思った事か、それとも。


「優奈」

『ん?なん?』
(『ん?なに?』)

「……好きな人おると?」
(「……好きな人いるの?」)

『私?んー……』

「……え」

『ふふっ。冗談よ。おらんおらん』
(『ふふっ。冗談よ。いないいない』)


ほっと溜め息を吐けば愉快そうな声が響いた。それらを実感して言った台詞だったならどうしようかと。いや別に、いても良いけど。……良いけど。取り敢えず安心。


『今は、だけんこれからはわからんね』
(『今は、だからこれからはわかんないね』)

「……優奈ー」

『ふふふっ。そうねぇ。出来たらまたお電話するね』


のほほんとした声で心臓に悪い事を言う。言葉を失っていると妹はもう時間だと慌て出した。他にも聞きたい事は沢山あったが仕方無い。またその内時間があったら聞く事にして別れの言葉を口にする。


『うん。……あ、兄ちゃんも好きな人出来たら教えてよ?』

「……おー」


ならね(じゃあね)、と切られた電話を見詰め深く息を吐く。話好きな妹は、何時にも増して饒舌だった。普段ぼうっとしているけどやはり女の子か。恋バナを楽しそうに話す声は普段より弾んでいた気がする。


色々となんか疲れたなとぐったりしたまま話していた内容を思い返してみる。
妹の話が本当なら、それは所謂当て馬とやらにされているのではなかろうか。そうだったら妹に失礼って言うかなんか腹立つっていうか……兄ちゃんはどうすれば良いのか。ていうか好きな人って。妹に恋人。しかもひょっとしたら女の子。……別に、良いけど、さ。


最近覚えた単語を当て嵌めてみたり想像してみたりしては唸りクッションに突っ伏す。あまり好ましい状況ではない気がするのに、妹が暢気過ぎてそう感じさせないのが困る。……まぁ、あの妹なら大丈夫……かな。
存外図太く逞しい神経を持つ彼女ならどうとでもするだろうとある種諦めに似た思いで結論付けて顔を上げた。何かあったら連絡するだろうしと無理矢理気分を切り替え首を振る。


しかし、同性という事への抵抗が意外に薄い気がするのは自分もだいぶ学園に感化されてきているという事か。果たしてそれは良い事なのかと自分に問い掛け、今更かとこちらも思考を放りやる。そうしているとふいに最後に妹が言い残した言葉が脳裏に甦った。


「……好きな人」


ポツリ呟いた声が静かな中に響く。時計の音だけが鳴る部屋で一人でいる事を改めて実感し、変な気分になってポンと頭に手を置いた。


「あんまよう分からんね」
(「あんまりよく分からないね」)


クシャリと髪を掻き混ぜると欠伸を噛み殺しケータイを放り出して明日の支度へ戻る。
兎に角。例え妹に好きな人が出来たとしても、その先輩にだけはやりたくないな等と思いながらそれ以上考えるのを止めた。



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