妹の話

夜の静かな自室に軽やかな電子音が響く。明日の支度をしていた手を止め画面を見ると妹の名前。出れば報告だと言う妹の言葉に首を傾げながら話を促せば、あのね、という前置きの後に話し出した。


『スカーフのお話、教えてもらったよ』

「スカーフ?……あぁ、本当?何だったと?」
(「スカーフ?……あぁ、本当?何だったの?」)


そう言えば仲良くなった先輩からスカーフを交換しないかと持ちかけられたんだったか。応じようとしたら友人に怒られた、とも。まぁ制服って高価な物だから交換とはいえそうほいほい人に渡すもんじゃないよね、と後から考えていたんだけど風習がどうとかも言っていたか?


『何かね、恋人同士でスカーフ交換するとが学校の習わしになっとるんだって』
(『何かね、恋人同士でスカーフ交換するのが学校の習わしになってるんだって』)


「……こっ!?」


手近にあったクッションの飾り紐で遊びながらつらつら考えていた所におっとりとした口調で言われ一瞬思考が止まる。え、こい、……え?
電話を取り落とし掛け慌てて握り直すと、妹はそう言えば言っていなかった、と気付いたように話を付け加えた。


『えっとね、この学校、女の子同士でお付き合いするの普通らしいの』

「そ、そう……」


返事をしながら滲んだ冷や汗を拭う。そう、だよね。男子校なここがそうなら姉妹校で女子校な妹の方もそんな感じになっていても可笑しくはない。っていうか考えていなかったのが寧ろ可笑しいって言うか考えたくなかったって言うか?


『ね、兄ちゃんとこもそんな感じだったりする?』

「…………うん」

『あー、やっぱり?』


迷いながら肯定すれば妹はちゃんと考えていたのか納得した声。妹の方がしっかりしているみたいな様子に若干落ち込みつつ、ゴクリと唾を飲み込む。学園の慣習より兄のプライドより何より、ちゃんと聞かねばならない大事な事が。


「あー……、それで……その、先輩は、優奈の事ば……好きて……?」
(「あー……、それで……その、先輩は、優奈の事を……好きって……?」)

『て、言いよんなるけど違うごたー』
(『て、言ってるけど違う気がするー』)

「は?」

『だってその先輩、私じゃなくて明日香ちゃんの方ば好いとらすごたっもん』
(『だってその先輩、私じゃなくて明日香ちゃんの方を好きみたいだもん』)

「……えぇっ?」


兄の緊張しに対しあっけらかんと言い放った妹へどういう事だと食って掛かる。それに驚いた様子でいながらも再度同じ台詞を返す妹に眉を顰めつつ疑問を投げ掛けた。


「ばってん。スカーフ交換してて優奈が言われたっだろ?」
(「けどさ。スカーフ交換してって優奈が言われたんだろ?」)

『うん』

「それは何でね」
(「それはどうしてだよ」)

『ん〜。何でかは知らんばってん、友達の好きと恋愛の好きがごっちゃになって勘違いしとらすっじゃなかろか』
(『ん〜。何でかは知らないけど、友達の好きと恋愛の好きがごっちゃになって勘違いしてるんじゃないかな』)


うーん、と唸りながら話す妹にこちらもうーんと首を捻る。どうしてそう思うのか訊ねれば暫く考えた後ゆっくりと話し出した。


『私に好きてゆうていつも一緒おる明日香ちゃんはライバルだーみたいに言いよらすとばってんいつも明日香ちゃんの方ばっか見よんなるし、私と二人で話しよる時も明日香ちゃんのこつばっか話さすし。どう見ても私じゃなくて明日香ちゃんに気があらすど?』
(『私に好きって言っていつも一緒にいる明日香ちゃんはライバルだーみたいに言っているけどいつも明日香ちゃんのほうばっか見てるし、私と二人で話してる時も明日香ちゃんのことばっか話してるし。どう見ても私じゃなくて明日香ちゃんに気があるでしょ?』)


話しながら思い出したのかクスクスと笑って話す妹はとても楽し気だ。その声色に気を削がれてクッションに顎を乗せて寝転がる。


「あー……。その明日香ちゃんも友達の、って訳じゃなかと?」
(「あー……。その明日香ちゃんも友達の、って訳じゃないの?」)

『違うよお』


笑いながら否定され床に頭をくっ付けたままえーっと不満を溢す。すると疑われた事に機嫌を悪くしたらしい妹のムッとした声が受話器越しに届いた。


『顔合わせらすと直ぐケンカにならすけど、とっても楽しそうで目キラキラしとんなるし。本当にわかりやすかとよ?』
(『顔合わせると直ぐケンカになるけど、とっても楽しそうで目キラキラしてるし。本当にわかりやすいのよ?』)


話にふーんと言って返しながら恐る恐る心配を吐き出す。


「てゆうかさ、それ、どうすっつもりでおっと?何か……変な感じに巻き込まれとらん?」
(「て言うかさ、それ、どうするつもりなの?何か…変な感じに巻き込まれてない?」)

『んー巻き込まれたっていうか、ただ見よるだけだけん別になんもなかよ。明日香ちゃんが先輩好きなら応援するし、別ん人好きならそっち応援するし。さしより私は明日香ちゃんの味方でおるつもりー』
(『んー、巻き込まれたっていうか、ただ見てるだけだから別に何もないよ。明日香ちゃんが先輩好きなら応援するし、別の人好きならそっち応援するし。とりあえず私は明日香ちゃんの味方でいるつもりー』)

「……ふーん」



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