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「う、あっ?」
「……危ないと少しでも思ったら逃げろよ」
「は、はい」
「何かある前に直ぐ相談や連絡をする事」
「うぁ、い」
「ヤバそうな気がしたら仕事も何も考えずに先ず自分の身を守る事を第一にする。良いか?」
「わっ!と、はい、」
やや乱暴に乗せられた掌がグリグリと髪を掻き混ぜる。それに頭をぐわんぐわんと揺さぶられながら言われた忠告に返事を返していった。これは、痛くはないけど、酔う。
若干気持ち悪くなってきた所で漸くその手が止まった。
「……後。下手に隠そうとせずそういうのはちゃんと話してくれ」
「ぅ、え?」
頭を押さえられたまま視線を上げれば先輩はムッと口を引き結んで睨んでいた。その顔は怒ってもいるんだけど、どちらかというとどこか悲しんでいるようにも見える。
「……はい。ごめんなさい」
「……よし」
もう一度グシャリと撫でて離れた手を目で追い項垂れる。また心配を掛けてしまったらしい。あまり心配を掛け過ぎないようにとも思って隠そうと考えていたんだけど、余計掛ける事になってしまったか。これじゃ意味が無いどころか悪い状況にしてしまった事になる。それに、折角相談に乗ってもらっているのにこれはあまりにも失礼だった。
保身やら変な気遣いで妙な感じに拗れさたら駄目だなぁと反省しながら乱れた髪を戻す手に小さく息を吐く。と、玄関の方から来客を報せるチャイムが鳴った。
「ヘーイ。遅くなってごめーん」
間を置かずガチャッと扉の開く音と足音が聞こえ、リビングのドアが開け放たれる。明るい声と共に入ってきたのは隊長さんだった。
「……鐘の意味あるのかそれは」
「気にしない気にしなーい。はいっ!吉里くん。これ返すね」
「あ、ありがとうございます」
差し出された学生証を受け取ると先輩の表情に疑問が浮かぶ。そういえばここに来るまでの話だけでこれを貸し出していた事を言っていなかったな、と話そうとする前に隊長さんが口を開いた。
「これでタカの部屋の鍵開けれるようにしてきたからねー」
「へっ」
「は?」
合鍵合鍵、と楽しそうに言う隊長さんに先輩まで驚いた声を上げ更に驚く。え、また先輩に何も言わずにやったんですか。
「お前、何勝手に……」
「え〜?だってこれから必要でしょー?マサっち達に頼んで急いでやってもらったんだから逆に感謝してよねー、ってかカード作った時に最初っから付けとけよ」
「……ここへ連れて来る予定は無かったんだ」
「バッカじゃないの」
先輩の台詞を隊長さんは鼻を鳴らしてバッサリ切り捨てる。そして唖然としている俺に向き直り、ニッコリと笑った。
「ね、吉里くんっ。今日のごはんなーに?」
「ちょっと待て。まさか食っていく気か」
「もち。手間賃代わりだよ」
「手間って、」
「タカが妙なとこ奥手かつ説明不足だったのが悪い」
「はぁ?」
「……そうだよ。何で僕らの事ちゃんと話してなかったのさアンタは。そのせーで吉里くん無駄にいらん気を回すはめになってるしっ」
「いや、だからお前は何を言って、」
「罰として!これくらいの嫌がらせ甘んじて受けな!バーカバーカ!」
「聞け」
ポンポンと交わされる会話をポカンと眺める。隊長さんが何かに怒っているせいで先輩がだいぶ押され気味だ。前来た時も思ったけど、先輩隊長さん相手だとあんまり口で勝てていない気がする。それに、なんか普段より雰囲気が少し子供っぽいかも。
小さく吹き出すと目敏く気付いた先輩が不機嫌そうに睨んできた。それに一瞬見開いた目を細めて更に先輩へ絡もうとする隊長さんを引き留め先に鍵のお礼を言う。満足そうな隊長さんと複雑そうな先輩の対比にまた笑いそうになりながらカードをポケットへ入れた。
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食事やら会話やらを終え自室に帰ると制服を脱ぎハンガーに掛ける。内ポケットを探って先輩から貰った学生証を取り出し暫く眺め、ニヤニヤとだらしなく口が歪むのを押さえられないまままた大事に仕舞った。
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