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「後、個人的な話ですが……」

「…………」

「作りたてのご飯と汁物を食べられるのが凄く魅力的ですね」

「………………」


ぐっと拳を握って言うと、一瞬だけ呆気に取られた顔をした先輩は徐々に呆れた表情になり深々と溜め息を吐いた。
いや、だってさ。タッパーで運ぶ以上どの料理も冷まさなきゃなんないから食べる時味気無いし。たまには味噌汁とか吸いたいし。後、ぶっちゃけタッパーに詰めるの面倒臭いし。……っていうのをこの前デリバリーのうどん食って以来思っちゃって。………駄目か。


「……その、……変な事言って、すみません」

「……いや、別に変では無いが……」


……だってさ。やっぱり作ったからには美味しく食べたいし食べてほしいし。レンジで温め直すのもいいけどなんかなぁ、って感じだし。……いや、ちゃんと始めに言ったみたいに安全性とかも考えたよ?ここなら変装してこなくてもよくなるんじゃね、とか、でも出入りの瞬間見られたらヤバいよねとか。
だけど、一度浮かんだ食欲に段々と思考が傾いていっちゃって……。


つらつらと脳内で言い訳を並べ立てるが益々呆れられそうな内容に目を泳がせる。どう話を持ち直そうかと考える中、じゃあ、と聞こえた声に視線を戻せば先輩は優しい顔で苦笑していた。


「明日から、……ここへ来てもらっていいか?」

「……はいっ」


やった。温かい飯が食える。
ヘラッと笑って返事をすれば手が伸びてきて頭を撫でられた。意外にあっさり話が決まった事と頭上の感触に気が抜ける。落ち着くなぁと相好を崩しているとふと今日あった様々な出来事を思い出した。結構疲れる一日だったと振り返りながら、その内の一つについて巡った感情に顔を上げる。


「あ、と。すみません、えーっと……一つご相談、が」

「どうした?」


微笑んで手を離す先輩にこっそり息を飲み込む。そして少しだけ緊張しながら言葉を選んで話を切り出した。


「あー……新しくおと、友達になりそうな人が出来たと、……ですけど」

「友達?同じクラスか?」

「い、いえ……違い、ます」


何時だったか仕事ばかりでクラスに馴染みきれていない話をしていたからかほっとした様子の先輩に眉を下げる。すみません、……色々すみません。


寮に戻る前、悩んでいた皆瀬君についての悩み。誰にも話さない、というのが最善とは思うけど今日一日で増えた悩みは多過ぎて。その中でも特にモヤッとしたこの問題は吐き出さないとまたグルグル悩み続けそうだと散々迷った末、結局先輩に相談する事にした。
葵君達は風紀の仕事絡みだから話し難いし、東雲君は……報告くらいはしなきゃいけないけどなんていうか相談事とか苦手そうだし。先輩なら口固いだろうし公平な意見聞けそうだなぁ、と。
……でも、皆瀬君に関わったからとまた頬引っ張られるのは嫌だからどうするか考え、結果暈して言う事に。……誤魔化せるかは分からないけど。


「それ、で、えっと……。その方……じゃなくて、人、あまり良い噂が無くて……」

「…………」

「で、でも悪い人じゃ無さそうなんですよ」

「……うん。それで?」


目を細める先輩に怯みながら言えば先を促される。吃りそうになるのをどうにか抑えて言葉を続けた。


「それで……、その人と少し仲良くなれそうなんですけど……」

「けど?」

「……その話を委員長に話したら、あまり詳しい情報無い人なんで、あの、……取り入って話引き出してこいみたいな事を言われまして……」

「……風紀委員長にか?」

「はい」


首を縦に振ると先輩の眉間に皺が寄った。それに口が引き攣りつつ本題へ入る。


「それで……向こうは純粋に友達になろうとしてくれてるみたいなのに、俺はそんな打算で近付いちゃって良いのかなぁ……と」

「悩んでいる訳か」

「はい……」


頷くと先輩は腕を組んで考え始める。眉間に皺が入りっぱなしな事に不安になりながら様子を窺っていると、チラッと俺を見た先輩は小さく溜め息を吐き出した。


「話を聞き出すためだけに友達になろうと思ったのか?」

「いえ、違いますけど……」


聞こうとは思ったがそれだけが理由じゃない。自分の事を憶えていてくれて嬉しかったし、話してみて良い人そうだとも思ったし。仲良くなりたいと感じた事に裏は無い。けど、なぁ。


「……お前がそいつを助けたいと思ってやるなら、きっと相手にも伝わるさ」

「です、かね」

「少なくともお前が悪い人物じゃないと感じたんなら、そう悪いようにはならないんじゃないか」

「……でしょうか」

「そうだろ」


穏やかな断言に少し胸の支えが取れた気がしてほっと笑う。こんな事言って良いのかとも悩んだが、やっぱり先輩に話して良かった。
笑って返す先輩に感謝して肩の力を抜く。が、ところでという接続詞の後続けられた台詞に心臓が止まり掛けた。


「その話に当て嵌まるような人物は、今この学園には一人しかいないように思うんだが」

「…………えっと、」

「それに。その人物と以前会った時の感想と今の感想、似通っているような」


マジで。……うっわ。俺語彙力無いなおい。
笑顔だがさっきまでと違い怖い空気を纏う先輩に、話の人物が皆瀬君だとバレている事を悟る。隠し事とか、喋らないってだけなら大丈夫だけど、隠しながら話すっていうのは苦手なんだよな。完全にボロを出した自分の至らなさに涙が出そうだ。

怒られるかと考えた瞬間右手を上げた先輩に、叩かれるのかと首を竦める。しかし頭に感じた衝撃は想像よりかはずっと軽いものだった。



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