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「タカんちと僕んとこ、親同士が仕事の付き合いで仲よくってさ。年が近いって事で僕ら物心付く前からよく遊ばされてたの」

「は、はぁ……」

「そんで学校とかも幼等部からずっと同じこの学園通って来たっていう所謂腐れ縁みたいな関係なんだよ」


幼馴染みだったのかと驚きながら話を聞く。二人共遠慮無い感じだったしなと納得していると、だったんだけど、とドスの効いた声色が響いてビクリと肩が跳ねた。


「中学半ばくらいからかな?僕見た目こんなんなせいで変な目で見てくるバカ増えてきてね」

「あぁ……」

「んでタカもタカで僕と違うベクトルで言い寄られ始めてさぁ」

「あー……」

「今更偏見は無いけどさ。僕もタカも野郎に興味は無いっつーの」


聞きながら相槌を打つが、次第に機嫌を下降させ声のトーンも下げていく隊長さんにハラハラする。
隊長さん、パッと見アイドルの女の子みたいだもんな。ここじゃなくても人気出そうな感じ。だけど、その気が無いのに言い寄られるのはやはりしんどいようだ。
遠い目をした隊長さんは、顔を顰めて嫌そうに首を振った。


「あー、……ほんで。いちいち呼び出される度に断りに行くのも面倒だったからもういっそ二人付き合ってる事にすりゃ無理矢理迫ってくる奴らも減るだろって話し合ってね。それで偽装カップルやってた、ってだけなんだよね」

「そうだったんですか……」


お付き合いは虫除けのためのフリだったって事か。二人共学園内でもトップレベルな美形らしいから二人が付き合っているなら嫉妬も湧きにいし何よりどちらにも制裁は無い、と。親衛隊隊長という肩書もその方が自然だろうからという事でなったらしい。……色々大変なんだなぁ。
自分には分からない苦労話にフンフンと頷いてはー、と息を吐く。


「ではお二人はお友達なんですね」

「そー。どっちかってゆーと悪友?……っていうのを言っとけっていう話だよ!!」


ベシッと膝を叩いた隊長さんに苦笑する。えーっと、何でここまで怒っているのか分からないけど普通に仲良くなった相手には知っておいてほしい事柄だったって事かな。やむを得ない事情だけど女の子好きって言っているから不本意っぽいし。
うんうんと相槌を打ち、それまでの気苦労を思ってしみじみと口を開いた。


「大変だったんですね」

「うん。だから、吉里くんはなーんにも気にしなくていいんだからねっ」

「はい?」


気にするって、何を?
叫んだお陰かスッキリした顔で隊長さんがウインクをする。機嫌戻って良かった、けど。何か俺気に病む要素あったっけ。ここに来る事について、だとも思うがなんか他に含みがあるような……。
よく分からない発言に訊ね返そうとしたのだが、そうだ!と両手を打ち鳴らした隊長さんに遮られた。


「吉里くん、タカから貰った予備の学生証、持って来た?」

「えっと、……はい」

「それちょっと貸ーして」


直ぐ返すからと広げられた掌に、そんな簡単に渡して良いものか悩む。しかし使いはしないからと笑顔で言われ、暫く迷った後内ポケットから取り出したカードを乗せた。


掌サイズのこのカード。言われた通りにこの学園の学生証なのだが、寮の鍵でもあり学園内で財布としても使う個人情報やら財産やら様々な物が詰まった超貴重品である。貸し出しはもっての他なそんな代物。
でも、今渡したのは隊長さんが言ったように『予備』であり俺のはちゃんと別のポケットに入っている。印字は俺の名前が書かれているこの『予備』。実は仕様が違う。と言うか、俺のじゃない。
先輩とご飯を食べるようになって暫くした頃、先輩が夕食代に使えと渡してきた先輩の財布みたいな物で。俺の所持品の中で最も扱いに緊張する貴重品なのである。それを果たして出して良かったのか。……隊長さんなら、大丈夫、だよね。


裏表とひっくり返し確認してからよしっ、と呟いた隊長さんはまた後で持ってくるから、と言って立ち上がり玄関へ向かう。


「ちょっと時間掛かると思うから、好きにしといてー」

「は、え?」

「しばらくすればタカも帰ってくるだろうから〜。……しっかし。タカも僕とおんなじまんまだと思ってたけど、まさかこんなかわいー子捕まえてくるなんてねぇ」

「は?」


人生分からんもんだ、と呟きながら出て行く背中を見送る。そうして一人先輩の部屋に取り残された俺は、妙な疲労感に突っ伏したのだった。











「……と、いう感じで……お邪魔して、ます」

「…………」


今に至るまでの経緯を話し終わったのだが、対面に座った先輩は額に手を当てたまま項垂れてしまって応答が無い。顔が見えない為何を考えているかも分からず不安が募る。


「やっぱり、ご迷惑……でしたよね」


てっきり先輩と隊長さんで話し合った結果来させたのだと思っていたのだけど、隊長さんの独断だったのだと分かり物凄く気不味い。知らない間に部屋に上がられていたのも嫌だろうし、毎日個人の空間に来るようになっていたなんて困るだろうし。……うん。帰ろう。
謝りながら立ち上がろうとローテーブルについた手を、大きな手が掴む。驚いて顔を上げれば先輩は眉を寄せて俺を見ていた。


「吉里は、良いのか?」

「はい?」

「ここへ来ても」


問われた言葉にかくりと首を傾げる。先輩が、じゃなくて、俺が、ここに来てもいいと思っているのかって事か……?まぁ、人の部屋に上がるのは緊張するし、何より生徒会用フロアを歩くのは見付かるかもという怖さがある。けれど。


「隊長さんも言っていましたが、あちらより自室に近くて楽ですし、出歩く人も少ないですし。見付かっても階を間違えたとかで誤魔化せなくもないんで割りと安全なのかと思えばお邪魔させていただ、……もらえれば?……助かるなぁと思いました」


腰を落として座り直し、先輩を待っている間に考えていた事を話す。それを聞いて何か思い悩む仕草をする先輩に、黙っていた方がいいかとも思ったがもう一つ、湧いた欲を溢してみた。



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