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自室に帰り着いてからメールにあった通り必要な物を手にまた部屋を出る。人目が無いか落ち着きなく見回したくなるのを耐えつつ急いでエレベーターに乗った。誰も乗ってこないよう祈りながら階が変わるのを待つ。
そうして止まったのは以前一度だけ訪れた事のあるフロア。そこに着いたエレベーターの扉が開いた瞬間、目の前に立っていた人影に息を飲む。そして驚きの声を上げる暇も無いまま手を引かれ、ある部屋の中へと連れ込まれた。





「はーい!吉里くん、いらっしゃ〜い!」

「お、お邪魔します」

「てきとーにくつろいじゃっていいよ〜。なーんて言っても僕ん部屋じゃないけどー」


コロコロと笑って言う様子に戸惑いながら突っ立っているとここまで手を引いて来た隊長さんはサッサと靴を脱いで部屋に上がる。それを慌てて追い掛ければ数ある扉を開けて一つ一つ部屋内の説明をしだした。


「トイレは知ってるよね。そっちが洗面所と風呂場ー。で、あっちがキッチンね。炊事用具なんて絶対触ってないから埃被ってるかもだけど……ってビニール入りっぱだ。いるやつ好きに開けて使ってね」

「え?あ、」

「そーして、こっちが寝室ー……って鍵掛けてやがる。ちぇー」


妙にテンションの高い隊長さんについていけないまま成り行きを見守っていたが、いい加減話を聞かなければ色々訳が分からないと恐る恐る声を掛ける事にした。


「あ、あのー……」

「うん?なあに?」

「その、どうして急にせ、……会長の部屋へ?」


そう。現在いるのは歓迎会の日お邪魔した先輩の部屋。鍵は隊長さんが合鍵を貰っているのか普通に開けていた。まぁ、恋人さんだしねぇ。
メールで隊長さんにこのフロアに呼び出されて来たのは良いが、まさか先輩の部屋にまた上がる事になるとは思いもせず。何で?と疑問符を飛ばしながら見ると、あぁ、と呟いた隊長さんが話し出した。


「きのー特別棟、不審者出たでしょう?いっぺんは生徒会室まで来た侵入者だっていたし、あそこ危ないって思ってさ」

「はぁ……」


成る程。二度ある事は三度ある、って事か。確かに特別棟にまた不審者が来て見付かったら面倒だ。だから今日も前回みたいにここで食えと。……でも、先輩の部屋もそう簡単に上がっちゃって良いものなのか……。
うぅんと考える俺を他所に、隊長さんはニコニコ顔でピシッと指を突き立てた。


「だ・か・ら。今日からごはんはこっちで食べてね」

「……えっ?今日、から、って」

「うん。明日も明後日もずっとここで、って事ね」


えぇっ!?と驚く俺に非常に満足そうな顔をした隊長さんはニンマリと口の端を上げた。


「なんかあってからじゃ遅いでしょー?ならもうここのが行きも帰りも近いし。遠慮しなくていーからガンガン来ちゃいなよう。あ、お泊まりしちゃってもいーからねっ」


ニヤニヤと笑いながら軽い調子で言われて呆け掛けたが内容はそのまま流してしまえるものじゃない。


「え?ですが、俺、ここに来て良いんですか?」

「いいに決まってんじゃーん。ほんと全然遠慮する事無いってー。ってゆーか寧ろさぁ。どーしてわざわざ生徒会室まで行ってたの。こっちのが近いし安全じゃない?」


まぁ、階が違うだけで同じ建物だから近いっちゃあ近い。夜外を出歩くよりは安全でもある。それでも生徒会室まで態々行っていたのは……只の惰性と言うか。始めにあの場所に行くと約束していたからというだけで、特に深い理由は無い。なのでそれは置いておいて。と言うかそれよりも気になる事が。


「えぇっと、何と言いますか……。隊長は、嫌じゃないんですか?その、恋人の部屋に誰か来るなんて……」

「ほえ?恋人?」

「へ?」


思わぬ反応にお互いキョトンと固まる。

ただ友人を部屋に招いただけで修羅場になったとかいう愚痴を電話口で長々語られた事あったし、自分以外の人と仲良くしているのも嫌だとかいう話も聞かされたし。この前のや今日みたいに理由があっての事なら仕方無いにしても毎日後輩が恋人の部屋に来るとか嫌じゃないのかなー、と、思ったんだけど。
何となく雰囲気的にその辺気にしない人なのかとも考えたが一応確認しておこうとして。でも……あれ?訊ね返される箇所何か可笑しくなかったか今。


聞き間違えかと首を傾げると、それまでポカンとしていた隊長さんが俯き、わなわなと震えだした。


「?たいちょ、」

「……あのバカ話してないの?」

「……う?」

「……あんの甲斐性なし!」


バシッと近くのソファを叩いた隊長さんが憤慨した様子で腕を組む。混乱する俺を、隊長さんはキッと睨むよう半目になって見上げ口を尖らせた。


「吉里くん……」

「うぇあ、はいっ」

「僕タカと付き合ってなんかないよ」

「へ」

「僕、女の子大好きだし。あんなゴツいのいらない」


膨れっ面で言われた台詞に目を見開く。驚く俺に隊長さんは大袈裟に溜め息を吐いて見せ、立ったままではなんだとソファを勧めてきた。苛立った様子にビビりながら座ればその隣に隊長さんが座る。そして足を組んでまたふかーく息を吐くとゆっくり話し出した。



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