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「って、違う!」

「はい?」

「……こいつは男。こいつは男。どう見ても男……!ドキッとかしてないしっ。いくら弱ってるからってこんなん……っ。毒されるな、オレ……!!」

「……あの?」

「……はっ」


そっぽを向き頭を抱えてブツブツと早口で何事か捲し立てる転入生君に恐る恐る声を掛ける。ガバリと上げられた顔は髪や眼鏡でほぼ隠れているが頬や首が真っ赤になっているのが見えた。大丈夫かと聞けば何でもないとブンブン頭を振った後、あ!と声を上げて一歩近付かれる。


「えっと……。お、オレは皆瀬昴(みなせ すばる)っていうんだけど、あの、」

「……あぁ、俺は吉里悠真と申します」

「吉里……?ひょっとして、祥守と会った事ある?」

「あ、はい」


肯定を返せばそっか、と安心したような声と共に固まっていた肩を下ろされる。少しは気を許しても良いと思われたのだろうか。


「よろしくお願いいたしますね」

「……っ、っ、」


少しだけ上にある顔を見ながら笑い掛けると今度は縦に何度も首が振られる。首、もげるんじゃなかろうかと心配しながら唸っているのを眺めていたら、また皆瀬君はあっ、と唐突に大きな声を上げた。


「ご、ごめん!えっと、オレ、もう、行かなきゃ、で!その、……その内、また……」


視線をさ迷わせ吃る皆瀬君に何を言おうとしているのか気付き言葉を継いだ。


「またお話ししましょうね」

「う、うん、うん!」


表情は分かり難いが嬉しそうに声を弾ませ頷き、手を振って走り去る皆瀬君を見送る。……って俺も時間ヤバイじゃん。
ぎゃあっ、と叫びそうな口を押さえて前来た時通った道へ駆け出した。











指定時間ギリギリ……過ぎてしまった特別棟前。仕事中抜けてきた天蔵先輩が腕を組んで立つ前に駆け込む。ゼェゼエと息を切らせながら謝罪すると目を眇て理由を問い質された。


「っ皆瀬、昴君に、会って、いました」


僅か目を見開く天蔵先輩を見上げて顎下の汗を拭う。天蔵先輩の視線がザッと体を一巡し怪我の有無を訊かれ、無いと答えた。頷き腕を組み替えた天蔵先輩は壁に背を付け目を細める。


「何か暴言を吐かれたりはしなかったか?」

「いえ、大丈夫、です」

「そうか。……では何か忠告や現状の釈明について聞いたりは出来たか?」

「……少し話しただけで直ぐ別れてしまい、特に、何も……」


うっ、と言葉に詰まりながら目を逸らす。聞く時間、無かったし。あぁでも引き留めてでも何か聞いておくべきだったか。
そうかとあっさり言われたが、聞こえた溜め息に落胆が含まれている気がして焦って食い下がる。


「っですが、風紀や噂で耳にしている転入生像と違い、その、普通に良い人そう、でした」

「……ほぅ」

「突然癇癪を起こしたりだとか、殴り掛かって来るなんて事は無くっ、えぇっと、あー……」

「危険人物では無い、と」

「は、はいっ」


力を込めて返事をすれば天蔵先輩が顎に手を当て興味深そうな顔を虚空に向ける。そしてふむ、と何か考える素振りをすると俺を見下ろし口を開いた。


「もしまた会えたなら危なくない程度に取り入って情報引き出してこい」

「……分かり、ました」


了承してから昨日不審者を発見した場所まで案内し状況を説明する。朝の内に天蔵先輩が建物の周りを見て回ったがやはり何も不審物は無く、俺の想像通り出待ちだったのだろうという事で話は着いた。労いの言葉を貰い、見回りの時間を考え直すかと言いながら風紀室へ戻る天蔵先輩に別れを告げる。
その後暫く放心してポケッと突っ立っていたが手提げに入っている課題の存在を思い出して慌てて寮へ帰る道に足を向けた。



キシキシと瓶が擦れ合う音を聴く道すがら、天蔵先輩との会話を思い起こす。……取り入る、か。実際俺も仲良くなって色々話聞こうと考えていたけど、そうか、これそんな感じになるのか。何か利用しているみたいで心苦しい。
でももし本当に悪い人じゃなくて、噂が誤解だったりするのなら皆瀬君の為にもなるのだし。学園も早く正常になってほしいし。その為には色んな情報集めなきゃだし。じゃなきゃキツいし大変だし。


どうにもモヤモヤとして気持ち悪い。ちょっと誰かに相談してスッキリさせたいな、と考えた所で直ぐ浮かんだ顔に、ピタッと足を止めた。


……皆瀬君に会った事、先輩にも言わなきゃいけない、かな。関わるなって言われていたから……怒られる?でも不可抗力だし、危なくなかったし。けど……。……黙っておくか?でも黙っていたら更に怒られる気がする。


今日一日でまた沢山増えた悩みにうんうん唸りながら足を動かすと、ポケットでケータイが振動する。メールかと開いて見た宛先に驚き、そしてその内容に今度は首を傾げた。



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