再遭遇

藤澤君とベンチまで戻ると葵君達とまた少しだけ話をして別れた。鬱屈した気分も晴れたさっぱりした気分。そのはっきりした頭で片肘にノートやお菓子の入った手提げを下げ、腕を組んで少し考える。


今日は久し振りに風紀の仕事はお休み。さっさと帰って課題済ませてほっとしたい、ところだけど。昨日の事を天蔵先輩へ報告しなければならない。その事に緊張とちょっとだけ面倒臭さを感じて空を見上げた。

指定の時間までまだあるけど、寮に戻ってからまた来るには面倒なくらい。早めに行って待っていても良いが……少しだけ、遠回りして時間を稼ごう。
うん、と一人頷いて少し外れた小さな道へと踏み出した。




日を重ねる毎に光と熱を増す陽射しが樹木に遮られて草に落ちる。春と夏の境目な明るさと風が漂う林、いやもう森な感じの小路。ここ、学園内だよね。何かもう慣れてきたけれど、この学園やっぱ広過ぎじゃね?

学園の地図は粗方頭に叩き込んでいるけど結構行った事の無い場所が多い。静謐な空気の中小鳥の囀りや木々のさざめき、落ち葉を踏む音を聞きながら見慣れない道を進む。校内を歩いているだけだというのにまるで森林浴でもしているようだ。方角的にはちゃんと特別棟へ向かっている筈だというのにこのまま山にでも突っ込んで行きそうな気になる。
太陽の位置を枝越しに確認し時計を見る。適当に選んだ道だったのだがほぼ真っ直ぐ目的地に向かえていたらしい。思っていたより早く着きそうで、何と無く獣道っぽい方へ逸れてみた。


今までも何度か林に足を踏み入れてきたけれど、余裕を持って歩くのは初めてかもしれない。サクサクと草や葉を踏む音や柔らかさは幼い頃従妹や友人達と駆け回った日々を思い起こさせる。懐かしい気分に、舗装された道よりこっちの方が身に合っているなぁ、なんて田舎者……と言うより子供な感情を抱いて前へと進んだ。





そうして歩き続けると拓けた場所に着く。殆ど人が来ていないのか隙間から草の生えた石畳。花壇であっただろう朽ち掛けの柵内には野生の草花。いくつか疎らに設置されたベンチはボロボロ。
何か見た事あるような、と首を傾げて辺りを見回してみると、大きな木の傍にあるベンチに誰かが座っている事に気付いた。

一人だけ項垂れて座る背中に、一人でこんな所に居たら危ないですよ、と声を掛けかけ、そう言えばまだ風紀の腕章付けていないやとポケットを探る。あれ?どこ入れたっけと焦る内に向こうに気付かれたらしい。慌てて立ち上がる気配がした。


「……お前は、この前ここにいた風紀委員!」

「えっ?」


探していた手を止め声のした方を見れば口を戦慄かせ指を突き付ける生徒。ボサボサの髪と分厚い眼鏡を掛けたその人は、件の転入生で。その事に驚きながらももう一つ、言われた言葉に吃驚して口を開いた。


「俺の事覚えていらっしゃるんですか?」

「は?」


苛立ち混じりに訊ね返されるが衝撃が大きくて構っていられなかった。俺はまだ風紀の腕章を出してすらいない。だからパッと見て直ぐ風紀だなんて分かる訳がない。この前というのが連休中出会った事を示すのであれば、あの短い時間でちゃんと顔を覚えていたという事で。
訝しむ転入生を見返しながら眉を下げてすみません、と一言付け加えて訳を話す。


「俺、あまり人に顔を覚えてもらえないもので。ちょっと嬉しくて吃驚してしまいました」

「えっ?……へ?」


口が緩むのを抑え切れず、ヘラッと笑って言うと何故か転入生が狼狽えだす。オロオロとする転入生の様子を疑問に思いながらも、彼の前まで足を進めて頭を下げた。


「先日は突然不躾な呼び方をしてすみませんでした」

「へ、えっ?」

「出会い頭に『転入生』だなんて失礼でしたね」

「あ、い、いや、オレこそ、いきなり怒鳴ったりして、……ごめん、なさい……」


お詫びを口にすると戸惑うように手をまごつかせながら小さく謝られた。それにまた驚き瞬く。あれ?確か転入生って自己主張ばかりして謝らないとかって言っていなかったっけ?それに敬語も使わないとか聞いたような……。人違い?でも転入生って言って反応したし、似たような容姿の生徒はいない筈だし……。


「いえ、こちらこそ」


やっぱり、本当は悪い人じゃないんじゃないか?
以前の直感を思い出し、ほっとしてヘラリと笑う。すると転入生君は俺を凝視したまま急に固まった。どうしたのかと首を傾げると今度は目を見張られる。



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