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準備室から出た瞬間、腹部に衝撃。昨日もこんなんあった、と軽く噎せながら下を見ると明るい茶髪。そして正面に苦笑している怜司君。という事は、


「葵君?」

「……うん。せんせー大丈夫だった?」

「あ、はい。明日までに出せば良いそうです」

「おぉ〜、よかったな。おつかれさん」

「あ、ありがとうございます」


胸に顔を押し付けたまま話す葵君と、労いながらジュースをくれる怜司君。怜司君、葵君の事はスルーですか。

何があったか分からないけど取り敢えず扉の前で止まっていたら邪魔だ。話を聞く為にも先ずは離してもらって歩きながらでも理由を聞こう、と声を掛けたのだが。何故かよりギュウッと回された腕に力が入りぐえっと呻く羽目に。


「ぅぐ、あ、葵……君?」

「……うー」

「……怜司君?」

「う〜ん……」


唸る葵君は首を振るばかりで返答が無い。困り顔を怜司君に向ければこちらも眉を下げて肩を竦められた。……えー。
そうこうしている内に中に用のある先生がやって来て慌てて退く。弾みで離れた葵君の腕を引き、どうにかそこから移動した。











「葵〜。悠真おろおろしてっからそろそろ離してやれよ〜」

「ん〜、もーちょいー」


外に設置されたベンチまで着くとまた抱き付かれた。追求を一先ず諦めグリグリと胸元に頭を擦り付けてくる葵君の背中を撫でる。一頻りそうすると満足した様子でやっと解放してもらえた。二、三度深呼吸し苦しかった息を整え、横で謝る葵君へと向き直る。


「急にどうしたんですか?……何かありましたか?」

「う?ん〜、じゅーでん?」

「……充電?」


何か嫌な事があったから、等という答えを想像していたのに全く予想外の単語が出て首を傾げる。言葉を反復して呟くと葵君はクリクリとした目を瞬かせうん、と頷いた。


「元気をね、ちゃーじしてたの」

「チャージ?……ってオマエまさか悠真から吸い取ってんのか?こらっ、ダメだろ?」

「そーだけど違う!」


怜司君が小さく小突きながら怒ると葵君は口を尖らせて反論する。じゃあどういう事なのかと訊ねると、まだちょっとむっすりとした顔を向け話し出した。


「きのう電話で姉さまにそーだんしたんだよ」

「何を?」

「元気をだすにはどーすればいいの、って」


元気、か。そういえば最近は親衛隊関連で相当疲れているようだったからな。よく可愛らしい小物や服を送って励ましてくるというお姉さんとしてはその質問は胸が痛い物だったんではなかろうか。


「……それでお姉さんは何と?」

「なかよしの子にギュッてしたら、っていわれた」

「え?」

「あー、それで一日悠真の腹を虎視眈々と狙ってたんか」

「えっ?」


怜司君が虎視眈々という言葉を知っているだと……っ?じゃなかった。お姉さん……それ、子供用のお話では?
男子高校生相手にそのアドバイスって如何なものか。年が離れていてかなり猫っ可愛がりしていると怜司君言っていたけどひょっとして葵君がちょっと子供っぽいのってお姉さんのせいなんじゃ……。

何て考えている俺を他所に二人は朝からの葵君の行動について話す。どうやら今日一日俺に抱き付こうと構えていたらしい。課題で頭一杯過ぎて気付かなかったよ。て言うかあれ?


「怜司君では駄目だったんですか?」

「えぇ?やだよ。汗くさいし腹筋かたすぎだし」

「ひどっ!」

「その点ゆーまはいー匂いするしちょーどいい〜」

「は、はぁ……」


ニコニコしながら俺を見上げる葵君に笑顔が引き攣る。香りについては妹もそんな事言われたとか言っていたから洗剤の匂いだろうか。そして……俺はあんまり筋肉付いていないという事、だね。……これは嬉しくない。
ひっそり黄昏る俺に気付かず葵君は何か言い淀む。そして少し恥ずかしそうにしながらそれにね、と付け加えた。


「ゆーま、さいきんずっと忙しくて疲れてるみたいだったからさ。ぼくも元気もらおって感じだけど、一緒にゆーまにもあげられたらなって、思ってさ」

「葵君……」

「えっと、ね。……ちょっとは元気、でた?」

「……はいっ」


嬉しそうに抱き付き笑う葵君に抱き付き返しながら暖かい気持ちになる。そう考えてくれる事だけでも嬉しいものだ。単純だけど本当に元気が出てきた気がする。
そう顔を緩ませていると、それまで妙にそわそわしていた怜司君が目を輝かせて身を乗り出してきた。


「折角だし、オレも〜ってあだっ!?」

「わっ!て、……あ」

「……怯えさせてどうするんだ」

「あ、いいんちょー」


流石に自分よりデカい相手に迫られるとビビる。思わずギョッとした所で急に怜司君は頭を押さえて動きを止めた。何事かと怜司君の後ろを見れば眉を顰め変な物を見る目をした藤澤君が数冊のノートを片手に立っていた。



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