「スティーブ……なにしてるの」
「きみに会いに来た」
「二度と関わらないでって、言ったでしょ」
「知らない」
「ねえ…分かってるの? わたし、」

もう人じゃないんだよ。
そう言う彼女の口元は、赤黒く染まっていた。
少し開いた口には、長く伸びた牙が見え隠れする。
彼女の後方に転がる亡骸を一瞥し、再び視線を戻した。

「たとえ人じゃなくても、きみはきみだ。関係ない」
「うそ」
「本当にそう思ってる」
「だってこんな、醜い…」
「醜くなんか」

地面に届くほどに伸びた彼女の髪を優しく撫でると、それまで僕をキッと睨み付けていた瞳が、ぐらりと揺れた。
そしてだんだんと、潤みをおびていく。

「きれいだよ」
「うそ、だ…」
「うそじゃない」

きみは美しい。
金色に輝く彼女の瞳を見つめながらハッキリと言い放つと、その瞳から一筋の雫が静かに流れ落ちた。
濡れた目元に、キスを落とす。
そのまま彼女を抱きしめると、口元と同じように赤黒く染まった両手が僕の背中に回された。
長く伸びた爪が僕の服を引き裂き、背中の肉に傷をつけるのを感じた。
とっさに離れていこうとしたその体を、僕は決して離すまいと、しっかりと抱きしめる。

「きみが何者でも、僕は構わない」

たとえいつか、僕のことさえ忘れてしまうとしても。


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