世界が崩壊してしまう前に出会った、あの人。
彼は今、どうしているだろう。


「なぁなぁ、俺たちと遊んでかない?」
「い、急いでるので…すみませ、っ!」
「ちょっとくらい良いじゃん?ほら行こうよ」

お酒の臭いを振りまきながら、わたしの腕を掴んでどこかへ連れて行こうとする男の人たち。
抵抗するも、力では到底敵いそうにない。
どうしよう、叫ばなきゃ…と思ったその時、

「おい、邪魔だ」

いつの間にかわたしたちの前に立っていた、一人の男性。
煙草をくわえながら、不機嫌そうにこっちを睨んでいる。
雰囲気からして、全うな生き方をしている人でないことは明らかだった。
その人がわたしに絡んでいた男の一人をあっさり殴り倒すと、他の男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「あ、あの、ありがとうございます…」
「……女がこんな時間に一人でウロウロしてんじゃねぇ」

相変わらず不機嫌そうに言う、男の人。
でもさっきと違って、その瞳の奥には優しさがある、ような気がした。

結局その人は、人通りの多い道まで一緒についてきてくれた。
会話は一切無かったし、その人の素性も分からないままだったけれど、不思議と怖くはなかった。
無言で去っていく彼の後ろ姿は、今でも忘れられない。

あの人は、無事だろうか。
かなりタフそうだったし、こんな世界でもうまく生き残ってそうだけど、果たして…。
もしもう一度会えたなら、ちゃんとお礼がしたい。
あの人は覚えてないかもしれないけれど、それでも。

思い出に浸りながら森を歩いていると、突然ひらけた場所に出た。
草原の先にあるのは、コンクリートの大きな建物。

「…刑務所?」

こうしてわたしが、あの人と運命の再会をするまで、あともう少し。


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