『何度も電話してすまない。でも、きみに会いたいんだ。僕が何かしてしまったなら謝る。だから、また前みたいに接してほしい。一度ふたりで食事した店があるだろう。あそこでまたディナーを食べないか? とにかく、電話してほしい。待ってるから』

留守電はそこで終わった。

だめ。
ヒーローなんて、好きになるもんじゃない。
どうせわたしのことは、後回しにされるんだもの。
寂しい思いをして、派手にケンカして、サヨナラするのがオチ。
そう思ったから、わざと距離を置いたのに、スティーブはなんにも分かってない。

後回しにされるのは仕方ないんだって、頭では分かってる。
わたしが我慢しなきゃいけないんだってことも。
でもわたしはきっと、好きすぎて独り占めしたくなる。
我が儘を言って、彼を困らせることになる。

だけど、彼と距離を置いてみて、よく分かった。
離れれば離れるほど、心が苦しくなる。
理性はやめろと言うけれど、本能が彼を求めてる。
ただの友達のつもりだったのに……こんなことになるなら、彼に出会わなければよかった。

後悔してももう遅い。
時間は戻ってはくれない。
わたしがスティーブと出会ってしまった時点で、もう手遅れだったんだ。
そんなことを考えながら、わたしは着信履歴の一番上にある番号に電話をかけた。


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