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普段は一人で歩く道を、自転車を押す知念くんと二人並んで歩く。
梅雨の訪れを感じさせる、湿気を帯びた風。
いつも教室で話すのと変わらない、他愛ない会話。
知念くんといると、時間がゆったり流れてるような気がして、それが心地良い。
ときどき起こる沈黙も、不思議と気まずくない。
でもやっぱり、いつもより緊張する。
自覚、してしまったから。

知念くんは、私に合わせてゆっくりなペースで歩いてくれる。
なんだか慣れてる感じだ。

「(そういえば、妹と弟がいるって言ってたっけ…)」

「やしが…ミョウジさんは、何でうちなーに引っ越してきたんばぁ?」

知念くんは不意に、そう訪ねてきた。
同じ質問を、クラスの子達にも幾度かされた。
そのときは、“親の仕事のつごう”と言って適当に誤魔化したけど…
知念くんなら、大丈夫。話せる。

「離婚したの。うちの両親」

私がそう言うと、隣の知念くんが立ち止まった。
彼の方を振り返ると、はじめはびっくりした顔、それから徐々に気まずそうな表情へ。

「…わっさいびーん……わん、」
「あ…大丈夫だから、気にしなくていいよ?前々から仲悪い両親だったから、いつかこうなるだろうなって思ってたし…」

私が苦笑しながら言うと、知念くんはゆっくりと歩き出した。
再び、二人並んで歩く。

私は、全てを知念くんに話した。
母は、母の両親の反対を押しきって結婚した。
しかし、その結婚相手である父は、私ができてすぐ、母への愛情を失ってしまったらしい。
私が小学生のころから発覚しだした、父の度重なる不倫。
我慢の限界を越えた母は父と離婚し、私を連れて、母の母(私のおばあちゃん)の住むこの沖縄にやってきた。
それが、この4月のこと。

「ミョウジさんのばあばは、うちなんちゅなんばぁ?」
「うん……でも、おばあちゃんとお母さんはずっと折り合い悪かったから、
これまで一度もおばあちゃんに会ったことなかったし、沖縄に来たこともなかったんだ」

だから沖縄の言葉も全然知らなかったの、と笑って言っても、知念くんの表情は曇ったまま。

「……ごめんね、変な話して」

なにか別の話題を…と考えていると、知念くんが「いや、いいんさぁー」と切り出した。

「…うちも、同じやっし」
「え……?」
「わんの両親も、4年前に離婚して……たーりーはどっか行っちまったさぁ」

そう言いながら遠くの空を見つめる知念くんは、消えてしまったお父さんを思っているのか、それとも…

「じゃあ、お揃いだね」

私が苦笑しながらそう呟くと、知念くんは一瞬驚いたように目を見開き、そして優しく微笑みながら言った。

「変なお揃いやさぁ」


***

「じゃあ、お揃いだね」
泣きだしそうな笑顔でそう言う彼女を、守ってあげたいと、そう思った。


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