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あの、二人で帰った日以降、私と知念くんは更に仲良くなった。
知念くんは、それまで以上にいろいろな表情を見せてくれるようになり、
それが私に心を許してくれている証拠のようで、そんな表情を見つけるたび、嬉しさと愛しさが増していく。
そのたびに、知念くんが好きだなぁ、と実感する。そんな日々が続いた。

そして明日はついに、体育祭の日。
担任が明日の流れとか注意事項とか色々話してるけど、クラスの半分くらいは聞いてない。
私も、ぼうっと担任の言葉を聞き流しながら、明日のことを考えていた。

最初はリレーの出場を躊躇していた。
私みたいな、他所から来たやつが走っていいのかなって。
でも、もうここまで来たら寧ろやる気満々だ。
体育の授業中にもメンバー全員でしっかり練習したし、あとは明日全力で走るだけ。

「明日、雨降らないといいね」

先生の話はまだ終わりそうにないので、隣で暇そうにしていた知念くんに話しかけた。

「去年は雨で延期になったんやしが、今年は大丈夫そうさぁー」
「そっか、良かった!比嘉中に来て初めての行事だから、すごい楽しみなんだよねー」

知念くんは頬杖をつきながら、小さく微笑んでいる。

「うーん、明日かぁ…何か緊張してきたかも」

知念くんの仕草にドキドキしてしまい、それを誤魔化すようにえへへ、と笑いながら言う。
しかし、知念くんはボーッとこっちを見たまま。

「(あ、あれ?私なんか変なこと言った…?)」

え?あれ?とわたわたしていると、知念くんは私のほうを見ながら、ぼそっと呟いた。

「…でーじ、かなさん」

小さい声だったけど、確かにそう聞こえた。
途端、知念くんはハッとして顔を真っ赤にし、「あっ、あの、わん、そのっ」と狼狽えはじめた。
しかし、

「ち、知念くん、あの…」

私には何がなんだか分からなかった。
なぜなら、

「“かなさん”って、どういう意味?」

知念くんの言った意味が分からなかったから。
知念くんは私の言葉に一瞬呆気にとられ、それからホッと息をついたが、
そのあと「あいひゃー…」とか「あー…」とか言いながら再びオロオロしはじめた。
今日の知念くんは忙しいなぁ、と思いながら彼の百面相を見ていると、突然バッと私のほうに顔を向けてきた。

「明日、」

知念くんの顔は真剣そのもので、口調もさっきまでと違ってしっかりしている。
彼の表情に、私の心臓が高鳴った。

「リレーが終わったら……教えるさぁ」


***

「…成る程、完全に後には引けなくなったわけですね」
「何でそんとき言わなかったんやさぁー知念!」
「り、凜!声デカイさぁー!」
「まぁ何はともあれ、きっかけができて良かったじゃないですか」
「くくっ、明日が楽しみやっさー!」
「(…くぬひゃーらに相談したの、間違ってたんかやぁ……)」


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