この前、クラスの子達にからかわれて(?)以降、変に知念くんを意識するようになってしまった。
彼と喋る時も自然にできず、何だかぎこちなくなっているような気がする。

「(そんなんじゃ、ないのに………そんなんじゃ……)」

気がつくとホームルームも終わっていて、日直の号令に合わせて立ち上がったクラスメイトを見て、私も慌てて立った。
「さようならぁ」と力の抜けた挨拶をすると、ため息と共にそのまま椅子に逆戻りしてしまう。
と、その時

「ちねーん!今日部活なくなったどー!」

教室のドアが勢いよく開かれる音と共に、威勢のいい声が響き渡った。
帽子を被った茶髪の男子が知念くんの所に駆け寄ってきて、その人に続いて例の金髪の人も教室に入ってきた。

「(うっ……あの人は…)」

私はどうも、この金髪の人のニヤリ顔が苦手だ。
なぜ私を見てニヤリとするんだろうか。

「しんけん?何かあったんばぁ?」
「晴美が今日いないらしくてよー。ここんとこ毎日部活あったし、今日くらい休もうって永四郎が」
「へぇー、永四郎にしては珍しいさぁー」

じゃぁ今日はあそこで買い食いしよう、どこどこに寄ってこう、などという会話が繰り広げられる。

「(そ、そんなに部活ないの嬉しいのね……)」

帽子の人はかなりテンションが上がって「佐世保バーガー食い行くどー!」と叫んでおり、
金髪の人も「声デカイさぁー」と宥めてはいるが楽しそうに会話に加わっていた。

「やーがミョウジさん?」
「!」

隣で騒がしく続く会話を小耳に挟みつつ帰り支度をしていると、金髪の人が例のニヤリ顔で突然話しかけてきた。

「え、えと、はい……そうですけど…」

そう答えると、帽子の人が「えっ?!」と勢いよくこちらに身を乗り出してきた。
反射的に、身を引いてしまう。

「へぇー、やーが例の転校生かぁー!」
「へっ?れ、例のって…?」
「ゆ、裕次郎!!!」
「ちゃーさびたがー知念?何焦ってるんやさぁー?」

とたんに“裕次郎”くんもニヤリとした顔になり(この人もか…!)、
「ふーん」だの「へぇー」だの言いながら、私と知念くんを交互に見比べている。
知念くんはというと、心なしか顔が赤い。
私はどうしたら良いか分からず、とりあえず「例の」の意味について知念くんに聞こうとした。
すると、

「君たち、何をしているんですか」

突然、眼鏡をかけた人(…リーゼント?)がどこからともなく現れた。

「ぬーやが永四郎、脅かすでねーらん!」
「君たちがちっとも戻ってこないからでしょ」
「やしが永四郎、やーも興味あるんばぁ?」
「何がですか?」
「知念とミョウジさんのカ・ン・ケ・イv」
「り、凛まで…!だから何もあらんって…」
「でも実際、仲良いんだろー?」

“凛”くんがそう言って詰め寄ると、知念くんは不機嫌そうに口を開いた。

「そんなんじゃないさぁー!ただ……席が隣なだけやっし」



席 が 隣 な だ け



その言葉が私の胸に突き刺さる音が、聞こえたようにさえ感じた。
私は鞄を掴むと、全速力で教室を飛び出した。

「ミョウジさん?!!」

後ろから聞こえた知念くんの声も無視して、私は昇降口に向かって無我夢中で廊下を走った。
頭の中では、さっきの知念くんの言葉だけが、ひたすらぐるぐると巡っている。
階段の踊り場に着いたところで、私はやっと走るのをやめた。
全速力で走ったせいで息は上がっているのに、頭の中はとても冷静だった。

「(そうだよね……ただの“隣の席の人”だよね…)」

周りの人に色々言われて、私は勘違いをしていたんだ。
もしかしたら、知念くんは私に、少なからず何らかの好意を持ってくれてるんじゃないだろうかと。
でも、違った。本人の口から聞いてしまった。

第一よく考えたら、知念くんが私のことをそういう風に思うなんて、そんなことあるわけないじゃないか。
私は知念くんに好かれるようなこと何もしてないし、寧ろ迷惑なことばかりしてる気がする。

「(知念くんだって、別に私だけに優しいわけじゃないんだし………でも、)」

でもそれを思うと、言いようがないほど悲しくなってしまう自分がいる。
こんな気持ちになる理由、私には一つしか思いつかない。

「(どうしよう……私、知念くんのこと………)」

自分でも気づかないうちに、彼に対する気持ちは大きく膨れ上がっていて、今の私には、その気持ちに逆らうことはできそうになかった。

私は、いつの間にか、どうしようもなく知念くんを好きになってしまっていた。


***

「…行ってしまいましたね。知念くん、追いかけなくていいんですか?」
「………」
「いま弁解しておかないと、勘違いされたままになってしまうかもしれませんよ?」
「……ッ!!」

「はぁ……手のかかる人達ですね…」
「しにわじわじーするさぁー…」


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