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私が比嘉中に来てから、もう1ヶ月になる。 ゴールデンウィークも過ぎて、あと二週間ちょっとで体育祭だ。 というわけで、今日のホームルームは競技の出場者決めの時間となった。 この学校では、クラス全員で出る種目以外にも一人一種目ずつ出場するのが決まりらしく、 まず初めに、一番の得点元となるクラス対抗リレーから選手を選ぶことになった。 リレーは男女二人ずつと決まっていて、サッカー部エースの喜納くんと、 女子バスケ部部長の山城さん、そして知念くんがまず決まった。
「女子あと一人どうるんばぁー?」
このクラスは運動部の女子がほとんどいないらしく、自分からやると言う人も現れない。 その時、
「そういえば、ナマエって元陸上部やあらんかった?」 「そうそう!体育の授業で走ったとき、でーじ速かったさぁー!」 「しんけん?じゃぁミョウジさんやってくれるー?」
という訳で、比嘉中に来て初めての体育祭で、トリで行われるクラス対抗リレーを走ることになってしまった。 しかも三年生は最後に走るから、大トリもいいとこだ。 勿論、走ることは好きだからそれ自体は構わない。 でも、新参者の私なんかがこんな大事な競技に出てもいいのだろうか。
他の競技を決めている間、リレーメンバーだけ教室の後ろに集まって、走る順番を決めることになった。 とりあえず、女子二人が走ったあとに男子二人が走る、というのはルールで決まっているらしい。
「わんアンカー走りたいさー!知念三番手でいいかやー?」 「別にいいさぁ。女子はどうするんばぁ?」 「あたし、バトン受けとるの苦手やっし、最初に走りたいんだけど…ナマエちゃんニ番目でもいい?」 「うん、いいよ。実はスタートは苦手なんだよね、私」
よって順番は、山城さん→私→知念くん→喜納くん、とあっさり決まり、それぞれ自分たちの席へ戻る。 他のクラスメイトは今、騎馬戦の出場者を決めているところだった。 リレーとは逆に希望者が多いのか、結構もめている様だ。
「ミョウジさん、陸上部だったんばぁ?」
席に着いたところで、同じく隣で席に着いた知念くんが話しかけてきた。
「うん、まぁ」 「こっちではやらないんかやぁ?」 「んー…今入っても、微妙なタイミングじゃない?」
そう言うと、知念くんは「確かに」と言って苦笑した。
「あいー、そういえば…」 「なに?」 「わったーニ番手と三番手だから、バトンタッチすることになるさぁ」 「…そういえばそうだね」
知念くんはそこまで言ったところで、顔を赤くして「あー…」と目を泳がせた。
「わん、バトン受けとるの苦手やっし……ミョウジさんからちゃんと受け取れるよう、ちばるさぁ」
顔を赤くした知念くんの表情にドキドキしつつ、「う、うん…私もちゃんと知念くんに渡せるように頑張る!」と返した。 すると彼は「にふぇーでーびる」と言って、鋭い目を優しく細めはにかんだ。
「(わっ…こんな顔、するんだ……)」
知念くんの新たな一面を発見し、私は何だか嬉しくなってきた。
「(もっと、知念くんのこと知りたい……)」
でも、どうして彼の表情が変わるだけでこんなにドキドキしてしまうのか、私にはまだ分からなかった。
***
「(ミョウジさん、陸上部だったんだばぁ……もっとミョウジさんのこと、知りたいさぁ…)」
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