知念くんに多大な迷惑をかけてから早三日。
あとから考えると、あれはかなり恥ずかしい状況だった。
教室にいた他のクラスメイトが気づかないはずもなく、
保健室から戻った途端に「何あれ、大丈夫だったの?!」と問い詰められた上、
なぜか「いつの間に知念と付き合ってたの?!」と言われてしまい、あらぬ誤解を解くのが大変だった。
どうやらあの光景を見た人が何か勘違いして、変な噂が広まってしまったらしい。
知念くんは知念くんで、授業が終わってすぐテニス部の人たちに連行され、部活中は散々そのことを聞かれたようだ。
ちなみに知念くんを連れてった金髪の人が、私の方を見てまたもニヤッとしたのは気のせいだと思いたい。

というわけで、今日は知念くんに、お礼兼お詫びとしてクッキーを作ってきた。
私としては結構うまくできたと思うけど、登校中、学校が近づくにつれてだんだん不安になってきた。
手作りとか、気味悪がられたりしないだろうか。

「(貰ってくれなかったらどうしよう…。で、でも知念くん優しいし、大丈夫……だといいんだけど…)」

学校に着いて教室で友達と喋りながらも、頭の中はそのことでいっぱいだった。
ホームルームの始まる5分前くらいになって、知念くんが教室に入ってきた。
テニス部は毎日朝練があるらしく、彼は決まってこの時間にやって来る。
知念くんが自分の席に着いたのを見て、私も友達のところを離れ、彼の隣にある自分の席に着いた。
私が「おはよう」と挨拶すると、知念くんも「うきみそーちー」と返してくれる。
こうして朝お互いに挨拶をするのも、ここ最近では毎日のことだ。

「あの、知念くん」

私は緊張で声が強張りつつも、鞄からクッキーの包みを取り出した。

「これ、この前のお礼にと思って…クッキーなんだけど、良かったら……」
「…わんに?」

私がコクリ、と頷くと、知念くんは目を見開いて固まった。
その表情を見て、私はふと思った。

「(もしかして知念くん、甘いもの嫌い…?)」

安易にクッキーなんて作ってきてしまったが、知念くんが甘いもの嫌いの場合なんて考えてなかった。
男の子なんだし、そういうことも十分ありえる。

「もっ、もしかして甘いもの嫌いだった…?」

ごめん、と謝ろうとすると、知念くんが「いや、」と私の言葉を遮り、クッキーの包みを取った。

「わん、甘いもんは好きさぁー。にふぇーどー」

知念くんは顔をほんのり赤くしながら、そう言った。


***

「あ、知念が何か食ってるさぁー!わんにもちょーだい!」
「!!こ、これはやれんどー!」
「…ははーん、さてはミョウジさんに貰ったんばぁ?」
「…っ」


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