「(もーやだ、帰りたい……)」

四時間目の授業が終わり、クラスの人たちは、仲良しグループで集まってお弁当を広げたり
学食へ向かったりと、皆が皆、楽しい昼休みを開始していた。
そんな中で私はひとり、お腹を抑え、机に突っ伏した状態で動けずにいた。

「(今日最悪だー…いつもに増して酷すぎ)」

何がかというと、アレだ。月に一度のいわゆる、“オンナノコの日”ってやつだ。
いつもはそんなに重いわけではないけど、何故か今回は痛みが半端ない。
しかも、今朝薬を飲んでくるのを忘れたうえに持ってきてもいない。最悪だ。
いつも一緒にお昼を食べているグループの子たちは、休み時間での私の様子から何となく事を察したのか、
「あんまキツかったら保健室行きー?」と言ったきり、そっとしておいてくれてる(とてもありがたい!)。
というわけで、ご飯を食べる気になど到底なれず、このどうしようもない痛みにただひたすら堪えていた。

「(なんで薬忘れたの、私のばか…!)」

はぁ、と一つため息をついたその時、隣から戸惑い気味の声が聞こえた。

「ミョウジさん…調子悪いんばぁ…?」

この声は、知念くんだ。
私は机に頭をつけたまま、彼の方を向いた。
私があまりに酷い顔をしていたのか、顔を向けると、知念くんにしては珍しく慌てた様子になった。

「ち、ちらが真っ青やさー!?」

知念くんの驚きようにこっちが驚きつつも、これ以上彼を心配させまいと、
上半身を無理矢理起こし、できる限りの作り笑いをした。

「ううん、眠いだけだから…。ちょっと保健室で寝てくる…」

実際、いいかげん横になりたいと思っていたので、
昼休みの間だけでも保健室で休ませてもらおうと思い、ゆっくり立ち上がった。
途端、下腹部に走る激痛。
あまりの痛みに立っていられず、その場にしゃがみこんだ。

「ミョウジさん?!だ、誰か…」
「だ…いじょぶ、だから…」

突然しゃがんだ私に驚いて助けを呼ぼうとした知念くんの言葉を、彼の腕を掴んで遮った。
正直原因がアレなので、あんまり騒がれたくない。
床に座り込んでひたすら痛みに耐えていると、知念くんが私の横にしゃがんで、背中をさすってくれた。

「(手…おっきい……安心する…)」

痛みが少し和らぎ始めたので、知念くんから体を離そうとしたら、彼が私の腕を掴んで離さなかった。
そして強張った表情で、私の顔を覗き込む。

「保健室まで歩けるかやぁ?」

私が小さく頷くと、知念くんは私の肩を支えて立たせ、ゆっくりと歩き出した。
歩くとまた痛みが強まったが、知念くんが支えてくれていたおかげで、無事に保健室まで辿り着けた。

真っ青な顔の私を見て先生は慌てたが、私が「あの、アレの日なんで…」というとすぐベッドで休ませてもらえた。
知念くんは、もう大丈夫だからと言っても教室には戻らず、昼休みが潰れるのも気にせずに予礼が鳴るまで側にいてくれた。

お腹の痛みと「アレの日」という言葉で何となく察したのか、知念くんは何も聞かなかった。


***

「えー!裕次郎!知念のヤツ、例の子をどっかに連れ込んだらしーどー!!!」
「じゅんにかやぁ?!!よし、探しに行くさぁ!!!」
「はぁ…知念くんもかわいそうですね、こんなに騒がれては…」


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