「じゃあここの会話文を隣同士で練習してねー。後で何組か当てるよー」

静かだった教室が、徐々に騒がしくなっていく。
英語の授業は嫌いじゃないけど、みんなの前で読んだりするのはあんまり好きじゃない。
何か変に緊張するし。

でも私のパートナーは、知念くん。
彼は英語が得意らしく、前回の授業で難しい問題を当てられた時もあっさり正解していて、
(失礼だけど)ちょっと意外でビックリした。

「(知念くんとなら落ち着いてできるかも…)」

それに、このまえ数学の教科書を見せてもらって以来、少しだけど挨拶とかちょっとした会話とかも交わせるようになった。
相変わらず少し緊張するけど。

ときどき話をするようになって分かったけど、知念くんは訛りが強くて、
彼と話していると私の知らない言葉がよく出てくる。
でも、私が理解できなかった言葉の意味を知念くんが教えてくれたりするから、
そのお蔭で沖縄の言葉をちょっとずつだけど覚え始めた。
彼は、本当はとても優しいのだ。

そんなことを考えながら知念くんの方を見ると、何と机に突っ伏してぐっすり眠っていた。
顔はこっち側に向いていて、とても気持ち良さそうな寝顔が見えている。

「(わぁ……寝顔だと、ちょっと幼く見える…)」

周りのクラスメイトたちは既に練習を始めていて、結構騒がしい。
それでも、知念くんが目を覚ます気配はない。
普段知念くんは真面目に授業を受けているので、居眠りしているところなんて初めて見た。

「(部活とかで疲れてるのかな…知念くんって確か、厳しいって噂のテニス部だったよね)」

こんなに気持ち良さそうに眠っている所を起こすのは気が引けるけど、
練習しないと当てられた時に困る。

私は、知念くんの肩を軽くトントン、と叩いた。
しかしよほど熟睡しているのか、起きる様子はない。
仕方ないので今度は肩に手をおいて、軽く揺すってみた。

すると知念くんは、眉間にシワを寄せながら、ゆっくりと瞼を上げた。
寝惚けているのか、その目は焦点が合っていないようだ。

「知念くん、会話文の練習してって先生が…」

そこまで言ったところで、知念くんは目を見開き、バッと上半身を起こした。

「…わん、寝てた?」
「う、うん。ごめんね?起しちゃって」

そう言うと、知念くんは顔を真っ赤にしながら「いや…にふぇーでーびる」と返してくれた。

結局、今回は発表には当たらずに済んだ。
こういう授業はやっぱり嫌だけど、今日は知念くんの貴重な寝顔が見れたし、
まぁたまには良いかもしれない。


***

「(目ー覚めたら、目の前にミョウジさんが……夢かと思ったさぁ…!)」


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