「いらっしゃいませ。 いつものお席、空いてますよ」
「ありがとう」

街の外れにひっそりと佇む、小さなカフェ。
その扉を押し開けると 、春の陽射しのように暖かな笑顔が僕を迎えてくれる。


数ヵ月前、外出中に急な雷雨に見舞われ、近くにあったカフェの店先で雨宿りしていると、真後ろのドアが突然開いて中から声をかけられた。

「あの、良かったらどうぞ…」

それがこのカフェの店員、ナマエだ。
明らかに閉店の準備をしているというのに僕を中に入れてくれたナマエは、タオルを貸してくれたうえ、コーヒーまで振る舞ってくれた。
お金を払おうとする僕を制止し、「もうレジ閉めちゃいましたから」と微笑んで言うナマエの瞳は優しく、僕はあっという間に恋に落ちた。


「いつもので良いですか?」
「うん、お願いするよ」

ナマエとの出会いから早数ヵ月、僕はナマエとオーナーが二人で切り盛りするこのカフェの常連になっていた。
僕の言葉にニッコリしながら「かしこまりました」と言うと、ナマエはカウンターの奥へと消えていく。
その背中を目で追っていると突然、隣に誰かが勢いよく腰かけた。

「……なぜここにいるんだ」
「なによ。いたらマズイことでもあるの?」
「そうは言ってないが、」
「じゃあその不機嫌な顔をこっちに向けないでくれる?」

そう言ってふんと鼻で笑うナターシャ。
嫌な予感がして後ろを振り返ると、すぐ近くのテーブル席にはパンケーキを頬張るワンダが(目が合うとニコニコされた)、さらにその向こうではコーヒーを飲みながら談笑しているサムとローディがいる。チラチラこちらを見ているのは気のせいだと思いたい。

「今の今まで気づかなかったなんて、訓練が足りないんじゃないの。それとも、それほど彼女に夢中なのかしら?」

ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら顔を覗きこまれ、無意識のうちにため息がこぼれた。

僕がこのカフェに通うようになってから、どのくらい経ったころだろうか。
どこから情報を仕入れたのか「ついにキャプテンが恋をしたって聞いたから」と、ナターシャがこの店に来るようになり。
それから後は芋づる式に、一人、また一人とアベンジャーズのメンバーがこの店に来るようになっていた。
それでも、一番来てほしくないと思っているあの男は一度も姿を見せたことがなく、何だかんだでいつもホッと胸をなで下ろしていたのだ。
それなのに。

「ほう。なかなか良い店だな」

すっかり聞きなれてしまった声に、ギクリと体が硬直する。
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこにいたのは、

「……スターク」
「爺さんのわりにはいい趣味じゃないか。それとももしかして、他に目的でもあるのか?」

いけ好かない笑みを浮かべながら、ナターシャがいるのと反対側の隣に腰かけるスターク。

「あら、いらっしゃい。ロジャースさんのお友だちさ………って、と、トニー・スターク?!!」

ドアベルの音を聞きつけカウンターの奥から出てきたナマエは、思わぬ客に目を丸くして硬直した。
その様子をニコニコと…いや、ニヤニヤと見つめるスターク。なるほどな、と小さく呟いた彼の言葉は、ナマエには聞こえなかったようだ。

「まったく、我らがキャプテンお気に入りのカフェというから来てみれば…こんな麗しいお嬢さんがいるなんて聞いてないぞ?」
「う、麗しいなんて、そんな…!」

スタークに褒められて満更でもなさそうなナマエ。
頬を赤く染めて、はにかんだ笑顔を見せたりして。

僕にはそんな表情、一度だって見せてくれたこと……。

「よければ名前をお聞きしても?お嬢さん。それと、今晩もし予定が無ければ一緒にディナーでも…」
「だ、ダメだ!!!」

冗談じゃない。
思わず立ち上がって叫び、馴れ馴れしくナマエの手を取ろうとするスタークと彼女の間に割って入る。

「ろ、ロジャースさん…?」
「なにがダメなんだ、じいさん?」

余裕の笑みを浮かべるスタークに、僕は完全に冷静さを失っていた。

「なぜって、僕だってナマエのことが好きなん………っ!!!」

しまった、と思った時にはすでに遅く。
みるみるうちに顔に熱が集まっていくのを感じる。

スタークはとうとう吹き出すのを必死に堪えている様子だし、周りのみんなも僕らをじっと見つめているし。穴があったら入りたいとはまさにこの状況のことだ。
恐る恐る後ろを振り返ると、ナマエは真っ赤な顔で「あの、えっと…」と口をモゴモゴさせている。
ああもう、こんなつもりじゃなかったのに…!

視界の端で、サムがヒュゥ、と口笛を吹くのが見えた。



She is Mine!!

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きてぃ様、リクエストありがとうございました!そして、ものすごく遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした…!!!
カフェ店員ヒロインに勢いで告白しちゃうキャップ、いかがでしたでしょうか?
少しでもご希望の内容に添えていましたら幸いです…!
とても時間が経ってしまいましたので、もう見ていただけていないかもしれませんが…もしまだ見ていただけていましたら、楽しんでいただければと思います!
改めまして、リクエストありがとうございました!


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