「ナマエ」

「は、はいっ!」


任務を終えて帰還途中のジェット機内。

腰を降ろして戦闘用の装備を外していると、唐突にキャプテンに声をかけられた。

反射的に立ち上がり背筋をピシッと正したわたしの真正面に立つ、険しい表情のキャプテン。


「一瞬、油断しただろう。子どもを助けたとき」


腕を組み、鋭い視線と厳しい声色でわたしを叱咤するキャプテン。

確かに、逃げ遅れた女の子を敵の攻撃から助けたとき、ホッとして気を抜いてしまったのは事実だ。

運良く周りに他の敵がいなかったから良いものの、もしあの時攻撃されていたら危なかったかもしれない。


「す、すみません、安心してしまって…」

「その隙を狙われていたらどうするつもりだったんだ? きみもあの子も、危険な目に合うかもしれなかった」

「は、はい……すみません…」


また、ダメ出しされてしまった。

キャプテンと一緒の任務に出るようになってから、毎回のようにミスを指摘されている気がする。

このまえだって、ちょっと無茶をして敵を倒しに行ったら、任務後に呆れた表情で「ああいう時は僕の応援を呼べ」と言われてしまった。

戦闘の実力では今のチームで一番劣っていることは、ちゃんと自覚してる。

けれど、遠回しに「足手まといだ」と言われているようで、やっぱり凹んでしまう。しかも、初めて会ったときからずっと恋い焦がれている人からの言葉だから、余計に。


思わず床に視線を落として項垂れると、キャプテンはそんなわたしに「今後は気を付けるように」とだけ言い、踵を返した。





「はぁー……。さすがキャプテン、よく見てるなぁ…」


翌日、施設内のカフェテリアで昼食を食べながら、同期のエージェントに昨日のことを話していた。

ため息をついてサンドイッチを頬張るわたしを、なぜか呆れた様子で見てくる同期の彼。


「あのさぁ……それってナマエだからじゃねぇ? そもそも、ダメ出しって言うより心配なんじゃ……」

「心配…って、どういうこと?」

「あー……や、何でもねーわ…」


なぜか言葉を濁してしまった彼を訝しげに見つめるも、続きを喋ろうとはしない。

どういうことか問い詰めようとしたとき、同期の彼がわたしの後方を見て顔を強張らせた。


「ナマエ」


何事かと振り返るのと同時に、わたしの後ろにいつの間にか立っていたキャプテンに名前を呼ばれた。

その表情は、今まで見たことないくらい険しく、なんだか怒っているように見える。

まさか、また何かやらかしてしまったんだろうか?

瞬時に記憶を辿ってみるも、思い当たる節は特にない。


「は、はい、何でしょう…?」

「こっちへ」


恐る恐る返事をすると、キャプテンはわたしの腕をぐいっと掴んで立たせ、そのままどこかへズンズンと歩いていく。

わたしは訳が分からないまま、キャプテンに引きずられるようにしてカフェテリアを後にした。





腕を引かれて辿り着いたのは、人のいない会議室だった。

部屋に入るとドアをロックして、わたしに向き直るキャプテン。

ちなみに、腕は掴まれたままだ。


「……彼とはどういう関係だ」

「か、彼?」

「さっき一緒にいたエージェントだ」


依然として険しい表情のままのキャプテンは、地を這うような低い声でわたしに問い詰める。


「えっと…彼はわたしの同期で、」

「そんなことを聞いてるんじゃない。きみと彼は、仲が良いのかと聞いてるんだ」

「は、はぁ…まぁそれなりには…」

「…それなり」

「ええ、それなりに」


質問の意図がよく分からない。

彼と仲良くしているとなにかマズイのだろうか。

もしかして、会話のボリュームが大きくてうるさかったのかな?

それなら謝らなければと、わたしが謝罪の言葉を口にしようとしたとき、キャプテンが再び口を開いた。


「…きみと彼は、その、付き合っているわけでは、ないのか…」

「へっ?! そ、そんなまさか!ただの同期です!」


確かに、彼とは特に仲が良くて、他のエージェントよりも一緒にいることが多い。

でも、付き合うなんて!

そもそもわたしは、いま目の前にいるあなたのことが好きなんですけど…!


キャプテンの思惑が全く分からず一人混乱していると、そんなわたしを余所に、キャプテンは小さくため息をつくと、さらに小さな声で「そうか……良かった」と呟いた。

そして、腕を掴んでいた手をスルスルと上に移動させ、わたしの頬にそっと触れる。


なに、これ……わたし、夢でも見てる?


「…ナマエ、」

「は、はい…」


いつもみたいに、険しい表情。

でもいつもと違って、ほんのり頬が赤い、気がする。

それに声も、いつもよりずっとずっと優しい。


「っ、……なんでもない」


キャプテンはそれだけ言うと、足早に会議室を出ていってしまい、その場には一人茫然と立ち尽くすわたしだけが残された。

一気に力が抜けて、ペタリと床に座り込む。


一体、これは、どういうことなの…?



素直じゃないだけ

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太郎様、リクエストありがとうございます!遅くなってしまって申し訳ありません!
ツンデレキャプテン、いかがでしょうか…!?太郎様の書かれるツンデレキャプテンの足元にも及びませんが、少しでも楽しんで頂けたらと思います!
こんな駄文サイトですのに、いつも拍手でも応援のお言葉をいただけて、本当に励みになっております…!今後も頑張っていきたいと思います!!
改めまして、この度はありがとうございました!


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