近ごろ、すっかりうちの常連さんとなったお客さんがいる。

彼の名前はスティーブさん。

二か月ほど前に初めて花を買いに来て以来、1〜2週に一度くらいのペースでお店に来てくれている。


「やぁナマエ」

「あ! スティーブさんいらっしゃい!」


今日もスティーブさんは、キラキラの金髪をなびかせ、爽やかな笑みを浮かべながら店先に現れた。



初めてうちのお店に来たときは、花を買うことに慣れていなかったのか、緊張した様子で小さな花束をひとつ買っていったスティーブさん。

端正な顔立ちにがっしりと鍛えられた体とは裏腹に、どきまぎしながら花を持ち帰るその姿が、こう言っては失礼かもしれないけどとても可愛かった。

だから再び彼がお店に現れたときも、わたしは彼のことをしっかり覚えていて。

そして3度目のとき、思いきって「最近よくいらっしゃいますね」と声をかけ、その会話の流れでお互いに名前を名乗り、そこからわたしたちは親しくなっていった。


「今日はなにをお探しですか?」

「えっと…ある花を育てたいんだ」

「ある花?」

「うん。ラナンキュラス? っていうのを…」

「あ! それならちょうど今朝、球根を仕入れたばかりですよ」


なんというタイミングの良さだろう。

わたしの言葉を聞いて、スティーブさんも嬉しそうに微笑んでくれた。


「あの…もし良かったら、育てるときに注意することとかメモしておきましょうか?」

「いいのかい? じゃあ、そうしてもらえると助かるな」




花を見つめるスティーブさんの目は、とても優しい。

きっと、彼の大切な人を見つめる目も、同じように優しいのだろう。

いつかわたしをそんな風に見てくれる日が来るだろうか…なんて。

そんな夢みたいな日が、本当に来たらいいのにな……。


そんなことを考えながらメモを書いていると、ある疑問が唐突に頭に浮かんだ。


「それにしても、どうしてラナンキュラスを?」

「えっ、いや、その…深い意味はないんだけど、」


わたしの質問に、突然あたふたとし始めたスティーブさん。

なんだろう。聞いちゃいけなかったのかな…。


「まぁ、とっても綺麗なお花ですもんね」

「う、うん、そうだよね」


明らかにホッとした様子で笑うスティーブさんに本当の理由を聞きたかったけど、あまり詮索すると嫌がられるかもしれない。

気になるけど、まぁいいやとメモを書く作業に戻ろうとした時、突然スティーブさんがハッとして真剣な表情になり、お店の外の通りの方を振り返った。


「?? どうかしました…?」

「いや……。すまない、少し外に出てくるけどすぐ戻るから、その間にメモを書いておいてくれるかな?」

「わ、わかりました…」


スティーブさんは再び謝ると、サッとどこかへ駆けていってしまった。

どうしたんだろう…すぐ戻るって言ってたけど……。







「まったくジイサンは……。バラの花束を買ってその場で彼女に渡すくらいしてみれば良いものを」

「そんなキザなことするの、アナタくらいでしょ」

「キャップのキャラじゃないよな」

「そもそも、一体いつからあの女性に恋をしているんだ?」

「ほら、あれよ。街がチタウリに襲われたとき」

「ははぁーん。そういうことか」

「あの…みんな、」

「そういうこととは?どういうことだ」

「おおかた、敵に襲われそうになった彼女を助けたとか、そんな所だろう?」

「大正解。あのお店ごと彼女が攻撃されそうになったところをキャプテンが助けて、その時に一目惚れしたらしいわ。それ以来、こうして健気にあのお店に通ってるってわけ。でも彼女、“スティーブ・ロジャースの正体”には気付いてないから…」

「なるほど。ただの客としてしか見られてないかもしれないわけか。憐れなキャプテンだな」

「み、みんな、ちょっと…」

「なんだ博士、さっきからどう、し……」

「やあみんな。こんな所で何してるんだい?」

「「「「あ………」」」」




I'm dazzled by your charms.

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リンス様、リクエストありがとうございます!遅くなってしまって申し訳ありません!
とっても素敵なリクエストで、私も楽しく書かせていただきましたが、ご希望の物になっていますでしょうか…?
こんな駄文で申し訳ありませんが、少しでも楽しんで頂けたらと思います!
改めまして、この度はありがとうございました!


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