(“WS後にバッキーがアベンジャーズに入ってたら”の設定です)




いま、僕の目の前で、無言で向かい合っている男女がいる。


男の名前はバッキー。僕の親友だ。

彼は少し前までヒドラの仕業で記憶を失い洗脳されていたが、僕との戦いを経て、少しずつではあるけれど記憶を取り戻し始めている。

とは言っても、昔のような明るい性格はまだ戻っておらず、必要以上に喋らないし表情もほとんど変えない。

そんな彼を見ると悲しくなるが、これからどんどん記憶を取り戻していけば、きっと元どおりの彼に戻ってくれるだろう。


そして、そんなバッキーと向かい合っているのが、


「ナマエ、」


そう言って、バッキーが目の前の女性…ナマエの髪についていたゴミをそっと取る。

するとナマエは、少し照れくさそうにしてニコリと微笑んだ。


ナマエはアベンジャーズのサポートを担当している、シールドの優秀なエージェントだ。

しかし、彼女は喋ることができない。

生まれつきではないらしいが、過去に何かがあって、それ以来まったく喋れなくなってしまったらしい。

初めはそんな彼女とどう接したらいいか少し悩んだものだが、だんだんと言葉がなくても彼女の気持ちや言いたいことが分かるようになっていった。

困ったときは口元に手をやる。驚くとまばたきが増える。恥ずかしがるとしきりに髪に触れる。怒っていると少しだけ唇を突き出す。

そして喜んでいるときは、見ているこっちも幸せになるくらい可愛らしい笑顔を見せてくれる。


近頃は些細な変化にも気づけるようになってきた僕は、要するにナマエのことが気になって仕方ないのだ。




そんな二人が、ここ最近、すごく“いい雰囲気”の様子で。

初めは気のせいかと思っていたけれど、なぜかやたらと二人一緒にいるし、いつもは仏頂面のバッキーも、ナマエと一緒にいる時は普段よりも少しだけ表情が柔らかい…気がする。

今だって、バッキーはすぐ近くにいる僕のことなんか知らんぷりで、無言でナマエの頭を撫でている。

ナマエはナマエで嫌がっている様子は全くないし、むしろ少し顔を赤くしながらニコニコしている。


そんな光景を目の前にして、ふつふつと胸の内から湧いてくる気持ちを無視することはできず、二人の間に割って入ってやろうかなんて子どもみたいなことを考えていたその時、


「すみません。バーンズさん、少しよろしいですか」

「…ああ」


エージェントに呼び出されたバッキーが去ったことで、僕とナマエだけがこの場に残された。

ナマエの顔を見ると、なんだか少し寂しそうで……。


「ナマエ、きみは、その…」

「?」


バッキーのことが好きなの?

思わずそう訊ねてしまいそうになったけど、何も言わずに口を閉じた。

そんな僕を、不思議そうに見上げて首を傾げるナマエ。



さっきバッキーがしたように、もし僕がきみの頭を優しく撫でたとしたら、きみはどうするだろうか。

バッキーがしたときよりももっと嬉しそうに、微笑んでくれるだろうか…。



「ナマエ、お昼はまだだろう?一緒に食べに行かないか?」

「!」


僕の言葉に、ナマエはニコリと笑って首を縦に振る。

その笑顔を見て思うのは、やっぱり僕はナマエのことが好きだ、ということ。



まだナマエがバッキーを好きだと決まったわけじゃない。

絶対に僕に、振り向かせてみせる。

いくら親友だからって、ナマエは譲らないからな!



ライバルはあいつ

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林檎様、リクエストありがとうございます!お待たせしてしまって申し訳ありません!
素敵なリクエストで私自身書いていてとても楽しかったのですが、ご希望の内容になっていますでしょうか…?
少しでも楽しんで頂けたらと思います…!
そして、こんな駄文サイトの小説を大好きと言っていただけて、とても嬉しいです!!これからも頑張りたいと思います!
改めまして、この度はありがとうございました!


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