「キャプテン・アメリカに助けられたぁ?!」
「ちょ、声おっきいって…!」
落ち着いたカフェの店内に、友人の大きな声が響き渡る。
何事かとこちらを振り返る周囲のお客さんたちにスミマセンと頭を下げていると、当の本人はそんな事もお構いなしに、テーブルの向こうからずいっと身を乗り出してきた。
「まさかとは思うけど、この前ソコヴィアであった事件じゃないでしょうね?」
「そ、そのまさかで…」
「え、ちょっとマジで?! あんた大丈夫だったの?」
「いやぁ、おかげさまで」
ハハハ、と苦笑いしていると、友人はわたしのそんな様子に呆れてため息をついた。
「ていうか、そもそもなんでソコヴィアなんかにいたのよ」
「それが……」
学生時代に仲の良かった子がソコヴィアの実家に帰ったというので、旅行ついでに彼女に会いに行っていたのだ。
まさか現地に着いて数時間後、そこが戦場になるとはつゆ知らず……。
町が宙に浮き、いよいよ混乱して逃げ惑う人波に揉まれるうちに友達とはぐれ、誰かに後ろから押しのけられた勢いで地面を転げながらも、わたしは必死で走った。
そして救命艇はもうすぐそこ、という時に、頭上で鳴り響いた凄まじい爆発音。
見上げると、崩れた建物の瓦礫がわたしに向かって降ってきていた。
とっさに両腕で頭をかばい、ぎゅっと目をつむる。
しかし、予想していた衝撃はなかなかやってこない。
恐る恐る顔を上げると、目の前には、逞しい体と大きな盾でわたしをかばう男の人。
「大丈夫かい?」
振り返ってわたしの無事を確認したのは、これまで映像や写真で幾度となく見てきた英雄、キャプテン・アメリカだった。
「あ、えと…あ、ありが」
「血が…!」
「え、」
彼の視線をたどると、そこにあったのは血だらけになったわたしの両脚。
おそらくさっき誰かに押されてコケたときに、ガラスの破片かなにかで怪我をしたのだろう。
こんな時に膝丈のスカートを穿いているなんて、本当に運がない。
逃げるのに必死だったからか、それまでちっとも気づいていなかなかったのに、怪我を意識してしまった途端、立っているのも少し辛くなってきた。
「あ、あの、大丈夫で、っわ?!」
混乱してしどろもどろするわたしをキャプテンはサッと抱き上げ、勢いよく走り出した。
まさか人生初のお姫様だっこがこんなシチュエーションで、しかも相手は世界的に有名なヒーローだなんて。
どこか他人事のように考えながら、目の前にある凛々しい彼の横顔から目が離せなかった。
「もう大丈夫」
救助艇に着くと、キャプテンはわたしの体をそっと降ろしながら言った。
偶然にも、はぐれた友達もそこに乗っており、わたしに気付いて勢いよく抱きつく友達の姿を見てキャプテンは安心したように微笑み、そして再び戦いの中へと飛び込んでいった。
そんな彼の背中が見えなくなるまで、わたしは呆けたようにその姿を見つめていた。
「なんていうか…なかなか凄い体験したのね……」
「うん…今になって冷静に考えたら、よく無事だったなって感じ」
キャプテンがいたから助かったものの、もし彼がいなかったらわたしは確実に死んでいただろう。
彼には感謝してもしきれない。
そう言うと、友人は突然ニヤリとした。
「で? どうだったのよ」
「なにが?」
「なにがって、キャプテンよ、キャプテン! かっこよかった?」
「そ、それは…」
正直言うと、かっこよかった。とっても。
というか、あれだ。一目ぼれってやつだ。
写真とかで見るキャプテン・アメリカは常にマスクをしているけれど、あのときの彼は何も被っておらず、素顔の状態だった。
アメリカの英雄が、あんなにかっこいい人だったなんて……。
助けられたという状況も相まって、わたしは完全に、彼に恋してしまっていた。
「なに、好きになっちゃったの?」
「……うん」
「はぁー、ナマエも大変ねぇ。英雄に恋するなんて」
だってしょうがないじゃん! すっごくすっごく、かっこよかったんだから!!
そう反論しようとしたとき、友人のスマホに電話がかかってきた。
ちょっとごめん、と席を立ち、電話に出ながらお店の外に出る友人。
ひとり席に残されたわたしは、アイスティーをストローでぐるぐるかき混ぜながら、キャプテンのことを考えていた。
彼はあのあと無事だったんだろうか?
大きな怪我をしたりしていないだろうか?
…今、どこにいるんだろう?
すると突然、後ろから肩をトントン、と叩かれる。
ビックリしてパッと振り返ると、そこにいたのは、
「やぁ。脚、酷くないみたいで良かった」
愛しのヒーロー!
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ますかっとてぃー様、リクエストありがとうございます! せっかくなので映画本編に絡めたお話にしてみましたが、いかがでしたでしょうか? 少しでもご希望に沿えていれば幸いです。 こんな駄文サイトですのに、大好きと言って頂けてとても嬉しいです…! 今後も頑張っていきたいと思います!ありがとうございました!
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