二、



「うーん…やっぱり無いのかなぁ…」

地面にしゃがみこみ、草を掻き分ける。一通り見てから、場所を移動して同じように草を掻き分ける。汗をぬぐって立ち上がると、学園を出発した時ほぼ真上にあった太陽は、今やだいぶ西に傾いていた。

この時代にやってきたときの私は、学校の帰り道の格好そのままだった。制服も、靴も、鞄に入った教科書やら何やらも。それなのに、数ヶ月前に親友とお揃いで買ったネックレスだけが、私の首から消えていた。しばらくは気持ちの余裕も考える時間もなかったけれど、新しい環境にも慣れ落ち着いてきたいま、あのネックレスをちゃんと探したいと思った。
今日は一日お休みをもらったので、私が最初に発見されたという裏山の山道へやってきた。きっと七松くんたちに助けられたとき、何かの拍子で外れてしまったに違いない。だとしたら、まだ道に落ちているかもしれない。

一休みして、再び地面にしゃがむ。手を土で汚し、飛び出してくる虫に驚きつつも探し続け、やっぱり無いのかもと諦めかけたその時、掻き分けた草の間にきらりと光るものがあった。半分砂に埋もれたそれを、そっと持ち上げる。シルバーの細いチェーンに、小ぶりな水色のガラスが三連で付いている。間違いなく、あの日親友とお揃いで買ったネックレスだった。

「あった……」

安堵と疲労から、思わず地面に座り込んで長いため息をついた。決して高価なものじゃないし、特別な理由があって買ったわけでもない。ただ偶然訪れたアクセサリーショップで、可愛いからと二人色違いで買ったというだけ。それでも今となっては、私が元の時代に生きていた証明となる、大切なものの一つなのだ。引き輪の部分が壊れていて、もう身につけることはできないだろうけれど、とにかく見つかって良かった。
ネックレスに息を吹きかけて砂を飛ばし、巾着にそっと仕舞う。ふと見上げた空はグレーの雲に覆われて、日没までまだ時間があるはずなのに辺りはすっかり暗くなっていた。これは一雨降ってきそうだと、学園を目指して駆け出した。



***



「なぁ長次!ナマエを見なかったか?」

図書室の戸を勢いよく開け、その勢いのまま同室の友に問う。長次は一瞬きょとんとした後、静かに首を横に振った。わかったありがとう!と、開けた勢いと同じように戸を閉める。図書室では静かにという言葉が聞こえた気がしたが、今はそれどころではない。何だか妙な胸騒ぎがしてきた。

五日間の校外実習を終えて学園へ戻り、先生への報告を終えたあと食堂へと向かったが、この時間いつもおばちゃんの手伝いをしているはずのナマエの姿がなかった。おばちゃんに聞くと、ナマエが来ていないことにその時やっと気がついたらしい。真面目なナマエが、珍しくサボりだろうか?学園中を駆け回って探し回るも、見つからない。たまに顔を出しているという図書室にも来ていないらしい。とはいえナマエのことだから、誰にも気づかれていないだけかもしれない。ナマエの存在感の薄さが、こんな形で不便になるとは思いもしなかった。

「小松田さん!!いまナマエは外出中ですか?!」

もし外出中なら小松田さんに聞けばわかるはずだと、廊下の先を歩いていた濃紺の後ろ姿に声をかけた。驚いた小松田さんの手から書類がぶちまけられそうになり、咄嗟に拾い上げる。ありがとう〜とふにゃふにゃした笑顔で礼を言う小松田さんを急かすと、どこからともなく出門表が取り出された。

「えーっと、ミョウジさんは…今日は外出してないね〜」
「そうですか…」
「うん……あれ、ちょっと待って」

出門表と、これまたどこからともなく取り出された入門表を並べて見比べる小松田さん。その顔が、徐々に青くなっていく。横から覗き込み、二つを見比べる。出門表には、昨日の日付でナマエのサインがあった。でも、入門表にはそれがない。

「そ、そうだ…昨日のお昼ごろ、今日はお休みなんだって…ちょっと裏山まで行くって、」

小松田さんの言葉を最後まで聞かず、全速力で駆け出した。ナマエの存在感の薄さなら、さすがの小松田さんといえど、彼女が戻ったことに気がつかなくとも不思議はない。だが、生真面目な彼女が入門表を記入せずに戻ったとは到底思えない。
ナマエは昨日から、外へ出たまま帰ってきていないのだ。




prev next