一、



幼い頃から、影の薄い子だった自覚がある。
おそらく口数の少なさや、身振り手振りの小ささが原因なんだろう。小学校の課外授業で、ちゃんとみんなと一緒にいるにも関わらず「ミョウジはどこだ」と焦る先生に慌てて駆け寄ると、もっと自己主張しろとなぜか怒られたこともあった。そんな理不尽な出来事にも昔はいちいち悲しんだり傷ついたりしていたけれど、成長するにつれてそれにも慣れ、17歳となった今ではもうなんとも思わなくなってしまった。

とはいえ”この時代”に来てからというものの、以前にも増して自分の存在感の薄さに磨きがかかったように思う。もはや、薄いなんて言葉では片付けられない。視界に入ってるはずなのに気づかれなかったり、普通の声量では相手に聞こえていなかったり…そんなことが毎日のように起こる。肩を叩いて声をかけると、相手からすれば突然その場に現れたように感じるらしく、「いつの間に?!」「どこから?!」なんて驚かれたりするのもしょっちゅうだ。別に隠れていたつもりもないのに、これじゃあまるで…

「まるで忍者だな!」

隣に座る七松くんが、満面の笑みで言った。

「…悔しいけど自分でもそう思う」
「なぁナマエ。今からでも忍者目指さないか?きっと優秀なプロになれるぞ!」
「やだよ…大変そうだもん」
「なはははは!!そうか!!」

無責任なことを言う七松くんを横目で睨むと、大笑いで返された。なにがそんなにおかしいのやら。

「しかし本当に不思議だなぁ!どうして皆ナマエに気づかないんだ?」
「そんなの私が知りたいよ……」

この時代で七松くんだけが唯一、私の存在を普通に認識してくれる。理由はわからない。野生の勘、というやつだろうか。裏山の山道の脇で気を失って倒れていた私を見つけてくれたのも、七松くんだった。そのとき彼と一緒にいた体育委員の子たちは、誰一人として私に気づかなかったというのに。

そうして私は、なんとも気のいい学園長先生の許可のもと、事務のサポートやら食堂のおばちゃんのお手伝いやら掃除やら雑用やら、いわゆる何でも屋さんとしてこの学園で働かせてもらうことになった。タイムスリップしたというだけでも驚きなのに、こんな規模の忍者の学校があるなんて。そもそもここは、本当に私のいた世界の過去なのだろうか?明らかにこの時代に無いような物や言葉を見聞きするたび疑問は深まるけれど、もうあまり考えないことにした。

「しかし、私はナマエの影が薄くて良かったと思っているぞ」
「なんで?」
「だって、こうしてナマエを独り占めできるからな!」

七松くんは太陽のような眩しい笑顔で、私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。一応、私の方が年上なのになぁ。それになんだ、独り占めって。私はペットか何かか。くしゃくしゃになった髪を直しながら再び横目で睨むも、七松くんの笑顔は崩れない。もう、と大きくため息をついた。
とはいえ、七松くんにはとても感謝している。私のことを助けてくれたし、ひとりぼっちの私を気にしてか、こうしてよく話し相手になってくれる。七松くんがいなかったら、私はきっとそこらで野垂れ死にしていただろう。彼の底抜けに明るい性格にも助けられてる。七松くんが私を普通に認識してくれていて、本当に良かった。



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