2.解っているのは、一人だけ
「あ、おはよ。柳」
「おはよう、みょうじ。寝不足といった顔をしているが、また精市のせいで眠れなかったのか?」
ご名答。
さすが立海テニス部の参謀。部員の周りの人間にも気が回っちゃうなんて一味違いますねーなんて思いながら、男友達で唯一幸村への気持ちを知っている人物である柳蓮二へ昨日のモヤモヤを晴らすように話し始める。
今の所、ああ。だとか、そうか。などと二つ返事にしか相槌は打たない隣の男だが、今の私にとっては聞いてくれるだけで神様に思える。
話し終わると
隣で歩く柳は、私側、詰まり柳の左肩に背負っていたテニスラケットが入ったカバンを右肩に持ち直した。その分距離がぐん、と近くなる。
「俺の考えだが、お前たちは大きな誤解をお互いにし合っているのではないか?」
まるでこしょこしょばなしをするかの如く耳元でそっと囁く。私、昔から耳だけは弱いんだよ、柳。くすぐったいし恥ずかしいしで頬が熱くなるのがわかった。
「ゴカイってなんのこと?」
「さあ、何だろうな。
時期にわかるだろう」
ふ、と笑い頭をポンポンしてくれた柳は、背中を見つめる私に振り向かず、左手だけ挙げて校舎の中へと入って行った。いつの間にか学校に着いていたらしい。
誤解って何?誤解?五回?五階?五戒?ゴカイ?うーん。考えれば考えるほどサッパリだ。
下駄箱にもいかず佇む私はふと自分の教室を見上げると、幸村がこちらを見ていてばっちり目が合ってしまった。
に、睨まれた?
睨んでいる目と私の目が合って、見開いたと思ったらまた睨まれて、そっぽを向かれた。
柳のゴカイの意味もよく分からないし、幸村には睨まれてるしで朝から散々だ。
はぁーあと大きな溜息を吐き、睨んでいた人物がいるであろう教室へ重い足取りで向かった。
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