1.幸村side

「幸村!一緒に帰ろう!」

俺の幼馴染である隣の家に住むみょうじなまえは、週に1度程このようにして登下校のお誘いをしてくるのだが一度も受け入れた試しは無い。


俺は幼い頃から神の子(神童ってやつ)などと呼ばれ、一目置かれてきた。
当時はそれが嬉しかったし特別に感じていたが、俺にとっての普通がソレである今、何とも思わない。というかあの瞬間から、何も感じなくなってしまったのだ。


昔はみょうじとも仲が良かった。
尊敬の眼差しを送ってくる同級生だったり、変に色目を使ってくる女とは違い、純粋に俺幸村精市を見てきてくれたからだ。
けれどみょうじには俺以外にも友達がいて負い目を感じていたのだと思う。
同級生と純粋に仲良くできない俺は年上の人間とつるむようになり、自ずと同級生との溝は深まるばかりで。

しばらくすると年上の割と気の合う女から愛の告白というものをされた為、何も考えずに受け入れた。気合うしいいかなって。
それを同級生で唯一仲の良かったみょうじに報告すると
「そう、よかったね幸村」と酷く傷ついたような顔をして一言。
「おめでとう!!精市〜!!」なんてワーワー言いながらいつもの様に祝ってくれると思っていたら、名前の呼び方が変わり、期待とは違う表情でドキリとした。それ以来毎日のように遊んでいた放課後も会うことすら無くなってしまい、急によそよそしくなってしまった。

女とも何をしていても楽しくなくて、すぐに別れた。
けどみょうじは変わらずよそよそしいままで。
俺が退院してからは週に一度、先ほどのように登下校だったりを誘ってくるが、俺は誘いを受けずにいる。あの時の、軽蔑したような呆れたような傷ついたような顔をもう二度と見たくないのだ。




心を満たしてくれることを期待して幾度となく彼女を作ったが、一度も期待に沿った女に出会った試しは無かった。


校門に前に似つかわしくない彼女ものである高級車の助手席に乗り込んでみたものの、
先程の幼馴染の顔が頭から離れない。

鳴ってもいない携帯電話を確認してメールを読むフリをする。

「あ、ごめん、急用ができた。
 今日は帰るよ。顔だけでも見れて良かった。折角待っていてくれたのに、ごめんね」

思ってもいない台詞を並べて、着てもないメールを読んで、焦ったフリをして、車から降りた。




嗚呼、俺はあの瞬間から時が止まったままなんだ


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