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不確定トークタイム  




 言いだしっぺは誰だったか、もう忘れた。沢村? 倉持? それともゾノ? 
 夜ご飯を食べ終わって、なんとなく話している最中に「彼女ほしいな」って話になって、まあ俺含めてこんなに野球に熱中してるヤツにそうそう彼女なんかできるわけないんだけど、「いたらもっとモチベ上がるよな」「いや、彼女のことが気になって部活もおろそかになる」なんて仮定の話でやんや盛り上がったりして、そのうち「今好きな子がいるかどうか」という方向にシフトしたとき、あ、やべーなと思った。面倒くさいことになりそうだなという予感みたいなのがふっと生まれて、さりげなく話から抜けようにも「御幸先輩はどーなんすか!」と沢村がいつもの何をも恐れぬまっすぐな目で聞いてきたので時すでに遅し。いつもなら後輩の無礼を咎める立場の倉持やゾノも全くかばってくれる様子はなく、「んなこと気になるか?」と思わず弱気になってしまった。

「気になりますよ! 彼女とかいないのは聞かなくてもわかりますけど、好きな子くらいはいるでしょ!」
「いや、いないヤツだっているだろ」
「いないんスか!? そう言いながら実はいるパターンでは!?」
「あー面倒くせえな」

 思わず本音が出てしまったが、その程度でたじろぐような扱いやすい相手はあいにくこの場にはいなかった。面白そうに事態をうかがっていた倉持たちは「いいからとっとと言えよ」とせかしてくる。お前ら、後で覚えとけよ。

「じゃあいる。同じクラスの子。はい、これで満足したろ?」

 こういう場合に「いない」と言うとさらに追及されるのは経験上わかっている。本当にいなくても「じゃあ好みのタイプは」なんて脇道にそれて延々と話が続けられるのは想像に難くない。ならばベストアンサーはこれ。「いる」ということにして、話を終わらせる。
 すると沢村も倉持もゾノも「は?」と言いたげな顔をしてきた。

「ハァァァア!? そんな適当な答えで俺を満足させようなんて片腹痛いわ御幸一也!」
「ったく、しけた答え返してんじゃねえよ」
「お前にはがっかりしたわほんま」
「え、そんな言われるほどのこと?」

 どうやら三人とも具体的に名前くらいは出すだろうと思っていたらしい。確かに、俺はこういう時に恥じらって名前を出さないタイプではないし、実際にいたとしたら正直に言っていた。ぼかしたのは、そんな子存在しないから。下手したら、クラスの女子の名前なんて半分以上わからないかもしれない。

「嘘つくくらいなら最初から乗んなっつー話だよ」

 鼻で笑ってそう言っている倉持は、俺に好きな女子がいないことくらい知っていたようだ。そりゃそうか。こいつは意外と人のことをよく見ている。
 話も一段落したしここでさっさと切り上げて部屋に戻ってもいいのだが、それだとやられぱなっしみたいで何だか負けた気分になる。ちょっとした仕返しのつもりで、倉持に「じゃあさ、お前は?」と聞いてみた。

「好きな子とかいんの?」
「は?」
「それこそ、クラスの子とかさ」

 倉持が「げっ」という顔をするのと、沢村とゾノが「おっ」という顔をするのはほぼ同時だった。
 
「いねーよ」
「どうかねえ。意外と倉持って自分のことはあんま言わねえからさ」
「確かにあんまイメージないっスね」
「彼女がいないんはわかるけどな」
「いるかもしんねーだろうが!!」

 全員の正直な感想にキレている倉持は置いておいて、話は勝手に進んでいく。「好きな女の子はいるかもしんないけど」「彼女はない」「大体フツーに考えて青道の野球部で彼女ができるわけがない」とか。
 その間の倉持のリアクションからすると、これ以上突っ込んでも何も出てこなさそうだった。もともと俺から話題をそらそうとするのが目的だったので、別にそれでいいけど。

「できるわけねーだろ、そんなの」

 倉持はそう投げやりに言って、入れっぱなしだった麦茶を一気に飲んでいた。
 そう言うヤツが大体部活を引退したり卒業したりの節目ですぐに彼女できるんだけどな。倉持の場合はどうなるんだか。


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