dream | ナノ


理由なんてそこにはない  




「倉持くんの好きなタイプって、どんな人…?」
「はぁ!?」

 英語の授業が終わってすぐ、大あくびをしていた俺に苗字はそう聞いてきた。よりによってこいつからその手の質問が来るとは思っていなかったから、正直なところ結構びびった。どういうサプライズなんだよ。
 俺の様子を見て、ようやく変な空気になりつつあるのを察したのか「えっと、あ、私が個人的に聞いてるわけじゃなくて」と弁明し出した。

「し、新聞部の子が『聞いてきて』って言うから……」
「それならそうと最初に言えよ。普通にびっくりすんだろうが」
「ごめん」

 新聞部、か。よっぽどネタ切れなのか何なのか、そんなもん載せて何になるんだか。でもまあ、そういう関心を持たれているとしたら悪い気はしない。ここは正直半分嘘半分くらいで、外面のいい回答をしておくのが最善策と見た。適当に無難なことを言っておけばいい。

「あえて言うなら、やっぱかわいい子」
「かわいい子……」
「俺よりちっこくて、見てて飽きなくて、毎日一緒にいたくなるような――」

 と、そこまで話していてふと「それってこいつにも当てはまらねえか?」と思った。いや、別に苗字をそういう対象として見ているとかそういうのじゃないけど、考えてみれば俺が最近一番話している女子ってこいつだし、もしこいつに彼氏とかできたらなんかムカつくのは確かだ。
 勝手にそんなことを考えてイライラしている俺の様子に気づく様子もなく、苗字は真剣に聞いていた。この優等生ちゃんが。

「…そういう子がいい」
「ありがとう、じゃあそう言っとくね」

 全く気にしていないように苗字はさらさらとメモを取っていた。ちょっとは気にしろよ。「もしかしたら好きな相手がもういるかもしれない」とか、思えよ。
 俺が思ってるのと同じくらい。

「苗字はどうなんだよ」

 そう聞いたのは、ちょっとこいつの慌てた顔が見てみたかったからだ。不意打ちを食らったときの苗字は大体、きょとんとして、一瞬後に「え…!」と驚いてみせる。ワンパターンすぎるきらいはあるが、不思議と見ていて飽きない。今日も同じリアクションをして、「う……」とか「えっと」とか言葉に詰まっていた。 

「私…は、あんまりそういうのは考えたことないし……」
「いいから」

 戸惑ったような顔をしながらも、苗字は素直に「ううん…」と考え始めた。シカトしてもいいくらいどうでもいい話なのに、そういう選択肢はもともとないらしい。

「優しい人…かな」
「ありきたりだな。他は?」
「え……うーん、かっこいい人?」
「適当かよ」

 どうやら本当に今まで「好きなタイプ」なんて考えたことはなかったらしい。全然参考にならねえし。俺に当てはまるかどうかもわからない。少なくとも御幸には全く当てはまらないところは安心した――って、どうして俺が苗字の好きなタイプなんかで安心してんだ? 

「と、とりあえず新聞部の子に伝えてくるから…っ! ありがとう」
「あっ、逃げんなよおい」

 声をかける間もなく、苗字はさっさと教室を飛び出して行ってしまった。
 そして周りを見回して、なぜか教室にいるほとんどのヤツがこっちを見ていたことに気づく。なるほど、あいつがいたたまれなくなって出て行くわけだ。

「なんなんだよ、ったく」 

 調子が狂う。いきなり変な質問をしてきた苗字といい、俺といい、何かがずれている。好きなタイプなんて、どうせならもっとでたらめなことを言っておけばよかった。あいつをもっと動揺させるような、そういうこと。
 早く戻ってこねーかな、と机に足を投げ出しながら苗字を待つ。誰かに振り回されるのは性に合わないし、せめてこの俺を振り回す女だって自覚持てよ。なあ、早く。


prev / next

[ list top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -