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時既に遅し  




「好きです。付き合ってください!」

 放課後の他に誰もいない教室でこれ以上ない程のベタな告白を受けたら、人は何も考えられなくなるものらしい。普段から自分がモテるという自覚がある人とか、慣れているひとならそうでもないだろうけど。あいにくそういった経験がほとんどない私の場合、ただ固まるしかない。
 普通、「告白」なんていうのは好きな人――つまり自分と少なからず関わりがあって、好意が芽生えた人に対してするものだと思うのだが、目の前に立っている彼のことを私はあんまり知らない。選択授業とかでちょっと話したことがある程度だ。そんな薄い関わりで「好きです」と言われても、こちらとしては「罰ゲームで告白されているのでは」と疑いたくなってしまう。

「前から苗字さんのこと気になってて…。おとなしいけどしっかりしてるし、自分の考えをちゃんと持ってるっていうか、そういうところいいなって思ってたんだ。俺のこととかあんまり知らないだろうし、いきなりこんなこと言われても困るだろうけど、もし良かったら、その、付き合って欲しい」

 私がどうにかこの場を逃れる言い訳を考えている間に、彼は誠実な告白をし続けてくれていた。聞いている限りでは、嘘っぽいかんじはしない。でも、だからといって「はい、いいですよ」と頷く気持ちにはあんまりならなかった。
 なぜなら私にも、好きな人がいるから。
 私の隣の席でありつつも、私とは性格も趣味も周りからのイメージも何もかもが正反対で、きっと高校を卒業したら私のことなんて忘れてそうな人。告白したところで勝算がゼロに等しいから告白しようとまで思ったことはないけれど、この気持ちは大事にしておきたかった。

「えっと……気持ちは嬉しいけど、私」
「『御幸くんが好きなんでごめんなさい!』ってさ」
「は?」

 横から割り込んできた声に、思わず耳を疑う。見なくても誰かわかるものの、一応横をちらりと見てみると、案の定御幸くんだった。
 二年では珍しい野球部のレギュラーで、テレビとか雑誌の取材などもたびたび受けているらしい有名人。これだけのステータスがあればさぞモテるだろうと思いきや、性格に難がありすぎて女子どころか男子からも敬遠されているという変わった人でもある。

「み、御幸くん!? なんで…」
「忘れもんしたから取りに戻ったら、なーんか面白そうな話してたから聞いちゃってたわ。メンゴ」

 全く一ミリも申し訳ないとは思っていない、なんなら「おもしれーから首つっこんでみたわ」という本音がダダ漏れな御幸くんの笑顔が無性に腹立たしい。加えて、告白されているのをほぼ全部聞かれていたのかと思うといたたまれなくなった。

「そうか…御幸と付き合ってたのか」

 告白してきた彼は彼で、御幸くんの嘘を真に受けてるし。素直すぎる。仮にも御幸くんと同学年の男子なら、この人が本当のことをあっさり言うわけないと気がついてほしい。
 御幸くんは「そーそー」と適当に頷いてるし、私が否定しないと事実みたいになってしまう。勘弁してほしい。これまで校内で目立つことなど片手で数えるほどしかなかったのに、御幸くんの彼女というデマを流されたが最後、どうなるかは想像したくもない。

「いや違っ……ごめんなさいのところ以外は全部違うから! 御幸くんとはただのクラスメイト未満の関係でしかないから誤解しないで!」
「『未満』って俺、苗字からクラスメイトとしてすら認められてなかったの? ひどくない?」

 それはまあ、いつもおちょくられていることもあってあまり進んで関わりたくない人だという意味だ。フォローするのも面倒だから言わないけど。
 私の言いたいことが向こうに細部までちゃんと伝わったのかはさておき、どうやら「告白を受ける気はない」というニュアンスは理解してもらえたのか、もうさっきまでの告白を押してくる気配はなかった。

「わかった。苗字さんのことは諦めるよ」
「あ……」
「御幸と仲良くね」

 完全に誤解したまま、彼は教室から出て行ってしまった。とりあえず断れたようで良かった、のだろうか? そもそもどうして私なんかに告白を? 隣でものすごく笑いをこらえている御幸くんに対する苛立ちはどこにぶつければ? いろんな疑問が頭の中で渦巻いて、パンクしてしまいそうだ。

「……御幸くん」
「おー」
「これ、もしかして誤解されたのかな…」
「多分」
「…………」

 ジ・エンド。一言で表すとしたら、まさにそんなかんじ。
 絶望している私に御幸くんは「そこまで落ちこまなくても」と呑気に声をかけてくる。大丈夫なわけがない。

「俺は誤解された方が嬉しいけど?」

 またそんな適当なことを言っている御幸くんに構っている余裕もなく、私はただ頭を抱えるしかなかった。どうか誤解が広まりませんように。どうか――倉持くんにだけは知られませんように、と祈りながら。


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