dream | ナノ


Play Sweethearts  




 目が覚めたら、白。窓から差し込む光が眩しくて目を細める。横を向いても、誰もいない。いつもなら普通のことだけど、ふとそれに違和感を覚えた。同時に昨夜の記憶がおぼろげに甦って、何ともいえない気持ちになる。さてどうしたものかと考えこんでも名案が浮かぶわけもなく。彼が戻ってきて開口一番に私に対して口にする言葉は決まっている。『オマエ、まだいたの?』、それだけ。そして何か優しい言葉をかけるでもなく昨日のことを話すでもなく次のお誘いをするわけでもなく、素っ気なく部屋から追い出すのだ。ひどい、とは思わない。彼がそういう男だというのは最初からわかっていたことだから。でも、そこでおとなしく引き下がるのはなんだか彼の思い通りに動いているようで気が進まない。物わかりのいい女でいた方が彼の機嫌を損ねないとしても。

 体を起こして、その辺に雑多に放り出された服を探しにかかる。彼のヘアバンドも、服も、脱ぎ散らかされたままだった。素っ裸でどこに行ったのやら。見当がつかないでもないけど、せめて下着の一枚くらいはいていけばいいのに、と思わなくもない。誰も素っ裸の彼と遭遇したからといって今さら驚きはしないだろうけど。彼に「普通」を求める方がどうかしている、ということくらいは短い付き合いとはいえ学んだつもりだ。普通の男なら昨夜抱いた女を放ってどこかに消えたりはしない。

 そういう人だ、と割り切ってしまう他ないのだろう。これ以上なく馬鹿馬鹿しい結論に諦め半分でため息をつきながらブラウスのボタンを留めた。彼はこういう、脱がせづらい服を嫌う。それを知りながら着ているのは、私なりのささやかな抵抗といったところか。彼の思惑にはまることは嫌がるくせに、本気で彼を拒むことまではできない弱さを、自分ではどうすることもできない。だから、いきなりドアが開いて素っ裸にタオルを巻いただけの彼が入ってきても、咄嗟にろくな文句も言えないのだ。
「オマエ、まだいたの?」
 ここまで型にはまった言葉が出てくると、逆に清々しい。自分が勝手に姿を消したことに悪びれることもない態度にも慣れてしまった。
「心配しなくてもすぐ出るから。…お風呂行ってたんだ?」
「まあな。オマエがグースカ寝てるもんだからこっそり行くのも一苦労だったぜ」
「そう、ご苦労様」
「冷てぇなあ」
 どっちが、と言ってやろうと思ってやめた。彼に何を言ったところで、私の苛立ちが強まるだけだというのはわかりきったことだったから。枕元に無造作に置かれていたヘアバンドを拾って手で弄びながら「もっと可愛げのあること言わねえとモテねえぞ」と軽口を叩く彼の真意は相変わらずよくわからない。私が他の男から好かれようが自分には関係ない、ということか。実際、その通りだ。少なくとも彼の中では。
 私の中では、とか、そんなことを考え出したらきりがない。身支度が終わって「じゃあね」と振り返ることなく告げて、ドアの取っ手に右手をかける。同時に後ろから彼の手が重ねられて、振り払う間もなく抱きすくめられた。
「……何?」
「やっぱ、もうちょっとだけ」
「そういう気分じゃないんだけど」
「オレがそういう気分になったから、ってことで」
 そんな支離滅裂な理屈で、納得するはずがない。都合のいい時だけ求めてくるなんて、本当に、救いようがないほど自分勝手な。それでも、重ねられた手に、私の腰に回された腕に、気まぐれに愛を囁く唇に、誘惑されてしまう。少しくらいなら、と、許してしまう。なんだかんだと文句を言いつつ、情のない女になりきることはできない。
「ちょっとだけ、なら」
 いいよ、と彼と視線を合わせ、どちらからともなくキスをする。彼の髪の毛から落ちた滴が服に染みこんで、その冷たさに身体を強張らせたら、声に出さずに彼が微かに笑っていた。


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