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つまるところそれは愛というもので  




 見栄えが良くて、手軽で、さらに美味しい。その三点を兼ね揃えた「ハンバーガー」なる食べ物が人の心をつかむのは当然の話なのだが、「デートで食べるのにふさわしいか」というと、俺個人としては異を唱えたい。ワンプレートのカフェごはんなり、パスタなり、他にいくらでも選択肢はあるというのに、何もわざわざこれを食べに来なくたっていいんじゃないのか。

「…なあ、どうしてもここが良かったのか?」
「うん。前から評判は聞いてたし、食べたかったから」

 彼女がハンバーガーにかぶりつきながら笑顔でそう答えるのを見ると、それ以上何かを言うのが野暮な気がしてくる。俺も一応事前に調べたが、確かにこの店は二、三年前にオープンしたばかりで、若い客からの評判が良いようだ。
 三好にさりげなく聞いてみたら「そこめっちゃ美味いっすよ〜俺もこの前行ったとこで」と、その時撮った写真を見せられ延々と長話に付き合わされた。いわゆる「SNS映え」する写真が撮れる、ということで女性人気が高い、と三好は言っていたが、俺からすればその「写真が撮れる」という理由でわざわざハンバーガーを食べに行く理由が理解できない。
 まあ、そう思っていながら彼女が望んだとおりについていく俺も俺だが。

「丞も早く食べないと、冷めちゃうよ」
「ああ、そうだな」

 目の前に鎮座しているダブルチーズアボカドハンバーガーに手をのばしつつ、彼女の様子をちらりと窺う。文字通り豪快にかぶりついたかと思えば、リスのように頬を膨らませて咀嚼している。
 どう控えめに見ても彼氏とのデートで見せるべき食べ方ではないと思うのだが、彼女にそういったことを気にする様子は微塵もない。
 いろいろ言いたいことはあるものの、俺が頼んだハンバーガーが冷めて不味くなるのは単純に不快なので、とりあえず食べることにした。ハンバーガーに刺さっている串を抜き、皿の上にさりげなく置かれていた包み紙にハンバーガーを包む。一口かじると、バンズのカリッとした食感とパティの旨みが口の中に広がった。率直に言うと、美味い。

「美味しい?」
「ああ」
「良かった。美味しいって評判聞いて、絶対丞と一緒に来たいって思ってたから」
「絶対…?」
「だって、美味しいものは丞と食べた方がもっと美味しいでしょ」

 何を今さら、といった風にさらりと告げられた言葉に思わず固まってしまった。
 彼女の事だから大して深い考えもなく言っているのだとわかっているのだが、そういったストレートな言葉を不意打ちで投げられるとどうしたらいいのかわからなくなる。

「丞。ポテトもらっていい?」
「…勝手にしろ」
「……怒ってる?」
「怒ってない」

 目を合わせないようにして、やけくそ交じりにハンバーガーをまた一口かじる。
 無意識に俺の心を乱してくる彼女も大概勝手だが、それをどこか心地よく感じてしまっている俺自身も、救いようがない。
 しかし、彼女が俺をわざわざ連れて来たがった理由も、俺が彼女の言うままにこの店に来た理由も、結局のところ互いのことが一番になっているという、どうしようもなく馬鹿馬鹿しくて愛しいものだということは認めるしかない。


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