dream | ナノ


沈む、想い  




(主人公→←清盛←信長)



 視線を感じる。私に対して注がれているそれには、決して穏やかで柔らかなものではなく、刺すような冷たさがあった。無言で私を責めているのだ。諦めの悪い人、と言うのは残酷に過ぎるだろう。あの人は、強すぎるからこそ迷っているのだから。今ここで私が彼と口づけを交わせば、どんな反応をするだろう? きっと、何も見なかったことにしてそっと立ち去るに違いない。あの人の理性が、矜持が、あるいは私と彼への複雑な感情がごちゃまぜになったものが、あの人をがんじがらめにしてしまっているのだから。私はそれを知っていながら、白々しく知らないフリをする。そして、私の隣で笑っている優しい彼は、そんなことを何一つ知らない。
「雪ってのは、いつの時代でも綺麗なもんだな」
 はらりはらりと舞う雪を見て微笑みを浮かべ、私を振り返る彼が、愛しくて仕方なかった。そうですね、と頷きながらもその目をまっすぐ見つめられない。先走りそうになる想いを止めるだけで精いっぱいだった。
 本当は彼が私の想いを受け入れてくれることを知っているのに、意図せず縮まりそうになる互いの距離を今のまま保っておこうと必死になっている。誰にも彼を譲りたくはないし、誰よりも彼を愛していると疑っていないくせに、と、自分の矛盾した行動に時折嫌悪感さえ抱いてしまう。
 その時脳裏に浮かぶのは、あまのじゃくで不器用なあの人の言葉。
『何をしてでも望むものを手に入れる覚悟がない者が、何を手に入れられると言うのだ』
 だから諦めろ、とあの人は言いたかったのだろうか。でも、それは私を買いかぶった言葉だ。これまでもこれからも、私は覚悟を決められずにいるに違いないというのは私自身嫌になるほどわかっている。情がうつってしまうことを怖いと感じてしまっている以上、一歩も進めるはずがないのだから。
 理性ではそう結論づけていても、やはり抑えられない衝動はあの人と同じように私の中にもあった。彼の髪についている雪に、触れる。彼はくすぐったそうに目を細めて、私の手が離れてからお返しとばかりに冷え切った両手で私の両頬を包み込んだ。
「清盛さん…冷たいです」
「そりゃあ、こんな雪の中で突っ立ってたらなあ」
「戻りましょうよ」
「もうちょっとだけ、こうしてたい…ってのはダメか?」
「風邪ひくかもしれませんし、今日はもう…」
「嫌だ」
 珍しく強い口調で言い切った彼の表情は、まるで意地を張っている子供のようだった。拗ねているような様子に戸惑っていると、彼が一歩近づいてきて、痛いくらい強く抱きしめてきた。途端に思考が混乱して、何も考えられなくなってしまう。どうして、と聞くことなどできない。その答えを私は知っているから。
「俺の事だけ考えてくれ。…今だけは」
 そしてまた、彼も私の答えを知っているのだ。近づきすぎることを怖れている私の気持ちにも、おそらくは。それでも私を求める彼を、あの人の想いを知らない彼を、突き放せない。今だけは――言い訳のように何度も頭の中で反芻しながら、躊躇いがちに重ねられた唇の冷たさをただ、感じた。


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