▼ 10.進む道、刻む道
「食べなよ──殺しなよ──ぼくは、ぼくだった。ずっと。わかっていたんだ。……でも、怖かった。 違う自分も、今の自分も、自分なんだって、認めるのがね。……ぼくは、たぶんもうあの町には戻れない。どちらみち、居場所はない」
「……おばさんに、会ったよ。セイに、会いたがってた」
軋み始めた声で、あえて話題をそらすように、ドゥロロは言う。セイは薄く笑って、それに返した。
「……でも、きっと、そしたら食べちゃうよ。わかるんだ。だんだん、全てが肉に見えてきているから……笑えるだろ。お前だけは、食えない木だけどね」
ドゥロロは笑わない。
ただ、ゆっくり涙を落とした。
「セイ──」
「ぼくはさあ、一度、死んでたんだ。それでね、一人目のお母さんに会ったよ。彼女はね、脆いながらに体を作れるけど、魂は宿せないんだって──」
「名前は?」
「……フォルグネーレ。自分に、様を付けるんだよ。面白い母親だろ……全部、抜け落ちてたはずなのに、な。忘れてなんか、いなかった──」
「フォルグネーレ、は、黒い髪が背中まであるのかな」
「──ふふ、見た目は、後付けさ。《お姉ちゃん》も、ずっとそばに居た。ぼくは、知ってたんだ」
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