▼ 10.進む道、刻む道
「──なにを?」
そう、ドゥロロは聞こうとした。セイは答えなかった。ゆっくり息を吸い、微かな声で歌う。柔らかな、どこか寂しい旋律が、小さく響きだした。
それは、どこかで聞いた、懐かしい声だった。
きみを呼んでいる 迷った木々のなか
大地を見下ろす鳥が 太陽を願う
歌声映し出す 蒼い水を溶いた花は
造られた紛いの花
空の滴が、終りを告げて
刻む道を潤すだろう
「──この歌は、予言だったんだよ、ドゥロロ」
歌い終えたセイは、薄く笑った。始終ほとんど力のない声だったのに、なぜだか、歌声だけは、やけにはっきりとドゥロロに響き、頭に焼き付いて離れない。震えた声で、なんとか聞き返したが、ドゥロロは泣きそうだった。
「……予言……なぜ、セイが、この歌を? フォルグネーレの意思を継いで生まれてきたぼくは、この歌を探せと、言われた。それが全てを救うって──でも、どこを探しても、そんな歌はなかった、のに」
感激したわけでも、憤慨したわけでも、絶望したわけでもなく──なぜか身体が震えてきていた。
驚いているのかもしれない。
「うん」
セイは、まっすぐに、青い瞳をドゥロロに向けた。
ドゥロロは続きを促されたと察して、再び、口を開く。
「……だから、古くに生きていたはずの獣種の魂を使って、作ったんだ──死者が捨てられるここには、沢山の魂が眠っているから──知っているはずだと、思って」
「お前と──もしかしたら継がれてきたフォルグネーレの意思が、お姉ちゃんを、作ってくれたんだな。ありがとう。一時でもまた会えて、良かった」
もう死んでいた、なんて、ぼくと一緒だ。セイは苦く笑って言った。
今日はよく笑う。まるで、無理をしてなにかを堪えているようだ。
「また会えたとき──最初は、わからなかったけど、なんとなくね、なんか、懐かしい気がして、泣きそうになったんだ」
「そう、なんだ……でも、歌なんて、結局意味、なかったんだ、ね」
「ううん。違うよ、ドゥロロ。──だってもう、聞こえないだろう?」
項垂れるドゥロロに、セイは言う。最初はなんのことかと思ったが、言われてみれば、確かに、森が静かになっていた。
眠っているみたいに。
「眠っている?」
「うん。たぶんね」
「……そっか」
──ドゥロロは、やっと笑う。セイも、小さく笑った。
隣合ったまま、のんびりと。それは、束の間の休息だった。
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