▼ 10.進む道、刻む道
もしかしたら、あの騒ぎを見た人かもしれないし、この森のことを、知らない異国の人かもしれない。
大変だ。引き留めなければ。
『──……あなたも、おいで!』
ふと、声がした。何かの声だ。脳内に、または、心と呼ばれるどこかの場所に、深く染み込むような響き。
昔から知っていたような、懐かしい──
(……って、ぼくは、なにを──?)
我に返って、森の奥への入り口を見る。前へと進もうとすると、何かを告げるかのように、突然目の前で枝が揺れ、葉が1枚、2枚、3枚と落ちて来た。
そっと、1枚を拾い上げて立ち止まり、呟く。
「人間……無事だといいけどな」
セイは──おそらく、大丈夫だと思うが、人間の方は、不安だ。とにかく急ごう、そう思っていたときだ。
──ひまわりのあった茂みの向こう、丘の上に、必死に向かって来る気配を感じた。
「……誰だ?」
振り向くと、それはだんだん、近づいて、見覚えのある形を作っていく。
「おーい、待って……お願い、待って!」
「おばさん……?」
ナリエだった。髪を乱しながら、ドゥロロを呼び止めていた。よほど疲れたらしく、息が荒い。体もふらふらしている。
「──どうして、ここに」
「私、間違ってたの」
ドゥロロの質問に被せるように、彼女は一方的に言った。ドゥロロはその強い意思を感じる雰囲気にのまれたのか、それとも、戸惑ったのか──もう一度、聞きたかったことをうまく口に出来ないまま、彼女の言葉を辿る。
「……間違、って?」
「──たぶん、あれは、フォルグだわ。私の目を覚ましてくれた。この場所、あの人と私が、子どもの頃、いつも来ていた場所で……よく、わからないけど」
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