▼ 8.痛みに慣れ、ぬくもりも痛む
もしそれで、すべてが終わっていたなら、そもそも、自分が生まれることも、無いはずだったのに。
「ん……」
セイが身動ぎした。
ドゥロロは悲痛な顔がバレてしまうと焦ったが、彼は目覚めない。ほっと、痛みに耐えるのとは違う意味で息を吐き出し、彼に布団をかけなおして、部屋から出た。
ほとんど備え付け以外に家具もない、玄関の方にいると、外が騒がしいことに気付く。町から突然姿を消した、化け物の捜索が続いていたらしい。
面倒なことになった。捜索と言えば以前、彼が森に入ったときにもあったらしい。ただし、誰も、森へは近づかないが。
もし、見つからずにあそこに行くことが出来れば、いっそ、そこで暮らしてはどうかと、つい考えてしまう。しかし彼は、あの、二番目の母の変わり様を、知らないはずだし、知っていたとしても──きっと、なんとかしようとするだろう。
(しかし、あの騒ぎ様からして、この町で人間として暮らし続けることが、もう、限界かもしれない……)
後ろに気配を感じて振り向く。考え込んでいる間に、彼は起きたらしい。
「……あ、起きたんだ」
なんとなく、言ってみたが、彼は彼で現状把握に忙しいようで、ただ疑問を投げる。
「ここ、お前のとこ──」
セイは目を擦りながら、そう言って、すぐに、はっとしたように周りを見回した。
「フレネザは、ここだよ」
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