森と君と | ナノ
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 8.痛みに慣れ、ぬくもりも痛む


 衣類のポケットから、小さな、木の実を出した。干からびた硬い殻が丸く覆っている。セイを追って来るときに、連れてきていた。それは既に、意思を感じない。ただの木の実だ。

セイはそれを手のひらに乗せたが、中身は感じられず、さらさらと小さく粉が出てくるだけだった。

「……フレネザは、死んだ──のか?」


泣きそうになる。怖い。
この、空洞が、生き物だったのか。

「なあ、答えろよ。フレネザ……水、飲むか」

 その殻からは、なんの返事もなかった。力を軽く込めるだけで、指先で砕けるだろう。

「──セイ、彼女は、最初から、生きていない」


 ドゥロロは、淡々と答える。何を考えているのかは読めない。

彼は、彼女が死んだとは言わなかった。セイにはそれは、死よりも、もっと残酷なことを言われたような気がしていた。頭に血が昇る。生きてないって、なんだよ。

「なんで……そんなことが言えるんだよ。お前は、なんなんだよ!」


 理性など働かなかった。問い詰めるべく口を開いた。だが、既にドゥロロは、聞いておらず静かにするように指示を出す。わけがわからず、喚き続けた。混乱して、おかしくなりそうだ。

「わからない、みんな、ぼくを騙していたのか! ぼくは、どうして、こんなことになって、彼女はなんで居なくなった。お前が──」


 ドゥロロは、小さく息を吐き、じっとセイを見据えた。淡いオレンジ色の光が、彼を捉える。その光は考える意思を、奪い、ただ従えば楽になるよと、セイに囁いた。


 彼は、それに従い、ぼんやりと黙ると、操られるままに、窓から出て、森の方角に向けて走り出す。ドゥロロがさせたことだった。

(本当は、使いたくなかったけど……)


 この力があれば、殺すのも、初めから容易だった。ただ、彼がそうしなかったのはなぜなのか、彼自身にもわからない。迷いを捨てられなかったからだろうか。

 冷たい目をしたまま、彼を見送り、それから、少しして、後を追って外に出る。もうじき、この部屋にいても、どのみち見つかってしまうだろう。それなら、せめて行けるところまでは、行こうとドゥロロは思った。

 どうせいつまで人間として生きられるかもわからないのならば、最後くらい《あの人》のそばにいよう。


 きっともうすぐ、終わりが始まる。だから────

「ぼくは、きみの願いを、叶えるよ。──フォルグネーレ」


ドゥロロは、小さく呟く。頭上では、白い鳥がぱたぱたと舞った。終わりかけの夏空を、覆い尽くしていた。


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