森と君と | ナノ
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 8.痛みに慣れ、ぬくもりも痛む

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 部屋で、先ほど連れ戻したセイと共に休んでいると、ピキ、と体のどこかの組織から音がした。なにが自分の中で育っている音だ。ドゥロロは小さく息を吐いた。そのままゆっくりと呼吸を繰り返す。

「痛い……」


 彼は、人間よりは木に近い、だけれどはっきりした意思や思考を持つ、生き物だ。長命で、成長が遅い。森の生き物を摂取して育つ、木の生き残りだった。
自分の中の人間を殺し、根付く場所を見つけるか、木を滅ぼして、そのまま人として生きるか選ばねばならなかったが、いつの間にか、彼は、人間のような体を手放すのが惜しかった。
どちらも選ばない道はなく、自死を試みたところで、木が残るだけだ。


 最近になって、追い討ちをかけるように、ゆっくりなはずの、木の成長が早まってしまっていた。



 誰にも言っていないが、既に身体には、変化や不具合が出始めている。指には、年輪のように、ぐるぐるした、そしてあまりに細かい指紋が多く目立ち始め、髪質は、少し固くなってきた。身体も少しずつ、固くなってきている。セイを見つけたときは、彼なりに、よく走れたものだと思う。


 あとは、ギリギリ耐えられる程度の、しかし定期的に起きる、体が何らかに抵抗を続けている証拠の、激痛だ。この身体はいつまで『人』の形として、持つのだろうか。


 セイは隣で寝ている。
と言っても、今、あの場所に帰るわけにはいかなかったので、ここは、自分のマンションの部屋の中だ。床に敷いた布団の上でセイは、静かに眠っていた。


 その横で、ドゥロロは考えている。今なら、殺すことも容易だと。そう考える一方で、なぜ、この《種》がわずかでも残っていたのかを。


 かつての人びとは、森にいけにえを捧げることから抗い、やめたはずだ。特に純血の種を滅ぼし、土を混ぜ、森から活力を奪おうと試みたことを、森の一部だった頃に、記憶している。

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