森と君と | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 7.私の終わりはあなた


何に気付いたのだろう、ふいに、男と目があった気がした。見られた。

「……おや」

そう言って、こちらを一瞬見て睨み付けると、すぐに笑顔に戻る。母は気付いていない。
それだけで、体に寒気が走る。知っている。自分はこの男を、やはり、確実に知っている。

自分をどうやら見る途端、男の態度は、急に変わった。

「なるほど……ははっ、わかりました、確かに、何にもいないようですので、帰らせていただきます。これは失礼しました」

なぜか、満足げにそういうと、あっさり引き下がる。
「二度と、来ないで」

母の声が最後にそう言った。
 扉が閉まると、とたんに、世界から音が無くなったかのような錯覚を覚えた。しばらく、何も、聞こえない。どっと汗が出て、心臓が早鐘を打ち、痛い。足が震えていた。一歩も歩けないような気さえしてきた。

「……昔、ぼくを、あいつに、売ろうと、して……」

自分でも、何を言っているのかわからなかった。思考が付いていかない。怖い。目が回った。あの場所で、病院と呼ばれていたあそこに、彼は居た。

 あの場所では、よく、何度も血を抜かれ、何度もよくわからない物を飲まされた。 そもそも、入院も何もかもが、まだ幼いとき、姉が居なくなってからのことだ。

彼はだいたい「おかしいな」とか「こうなる予定では」とか、いつも自分を見て、不満そうに一瞬睨んでから、それを隠すように、笑っていて、それは気味の悪い笑顔だったのを覚えている。

prev / next




##amz_B00LIQQAI6#S#