▼ 7.私の終わりはあなた
今年のひまわり。それが、見たかったの。
もう、私は、私ではなくなってしまうって、知っているから。
いつもあなたが、きれいだと言っていたそれを、一目見たかった。
あなたは、私の名前に、何も言わなかった。この響きを、甘いものを噛み締めるみたいに呼ぶのだもの。なんだか、残酷だった。
──残酷で、笑っちゃった。
だけど、面白いひとだった。『魔除け』って誤魔化してはいたんだけど、真に受けてね。
まあ、もう、終わりだろうけれど。
──言葉の記憶を取り戻すことは、私の死。人間として生きるための器が、もたないのね。
伝えたかったんだけど。
たくさん。この姿の間に。
「……アゼ、ここに居たのか」
寝具くらいしかない、狭くて白い部屋から、果実みたいな頭が顔をだして、宝石みたいな目で私を見つめた。
人食いの木は、人間の思考を惑わせる成分を持っている。ほとんどすべてが忌まわしいと刈られてしまったけれど。
まれに、人間のように生まれてしまうことがある。彼のように────何十年と生き永らえ、私を、仮の命として残してくれた。
私の。
「お父さん……なんで」
この場所で『彼』に会うには、彼がやがて来るはずの、ここにいるしかなかった。だけど、それももうおしまいだ。
──私には、全う出来ない。
「──ずっと探して、やっと、見つけたんだよ。しかし、こんなところで人間どもに利用されているとは、思いもしなかったな」
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