▼ 6.蒼い水を溶いた花
ピンと来ないことは好きではないのです、と言い切ると、フォルグは呟くように何かを唱え始めた。
ドゥロロの意思を聞く気など、最初からないのだ。
彼は、なぜか動くことも出来ないまま、そこにいるしかなかった。
そのうちに、どこか後方から風が吹き、彼女の髪がわさわさと揺れ始めると、一瞬、ドゥロロの体が、燃えるように熱くなった。
何かが、逆流するように体内をとても速く廻る感覚がある。後頭部が激しく痛んだ。
彼には永遠にも思える苦痛だったが、フォルグにはそうでもない。本当に一瞬のことだった。事実、雑作もなかったのだ。
「……終わりました。あなたが──もし、このまま、自ら決断を下さないのなら、体を蝕むそんな激痛に耐えながら、やがて、人間の肉体を木が裂き、骨を溶かし、自らを餌に、蠢く醜い姿で育ち、朽ちていくのでしょうね。ああ、こわい」
「……あなたは、もう、戻る気はないのですか」
一瞬、沈黙とも思える間が空いた。しかし、それを取り繕うように、再びフォルグが口を開く。
「……あなたは、自分の心配をしていなさい。時間はありませんよ?」
フォルグが消えた後も、ドゥロロはその場にしばらく、立っていた。すると、だんだんと込み上げてきた異物感に、気分が悪くなってきて、近くの水場で吐いた。血の味がした。
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