▼ 6.蒼い水を溶いた花
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脱け殻、それは、この町では成長の過程での産物としての意味ではなかった。
森に《何かを》奪われた者たち。それが、ここでの脱け殻だった。しかし、それを、彼らが自身が気付くことも、自覚することもまた、ほとんどなかったのだった。
窓からの朝の陽光で目覚めたフレネザは、ナリエのもつ施設のひとつ、カフェ・セイランに居た。
奥にある、8畳ほどの部屋の、ソファーを倒した簡易ベッドに、彼女は寝ていたようだった。誰かを呼ぼうと、声を出そうとしたが、甲高い咳が出るだけで、空気をうまく震わせることが出来ない。今までは、辛うじてだが、声になっていたのだが。
彼女は、この場所を知らない。セイの二番目の母であるナリエのことも、知らなかった。
「脱け殻ちゃん。具合、どうかな?」
突然、背後から話しかけられて、うわ、と彼女は驚いた。振り向くと、白衣を着た見知らぬおばさんが立っている。30代くらいだろうか。まだ若い。生き生きした目元は、穏やかそうで、好奇心を全身から感じる。
髪をひとつにまとめて、暑そうに白衣の袖もまくっていた。
「大丈夫かな?」
聞こえていなかったと思われたのか、彼女はもう一度こちらをうかがった。
フレネザは焦った。大丈夫、と声が出せないのを忘れて、喋ってしまったが、言葉として伝わっていないと気付いたのだ。
「あなた、脱け殻ちゃんでしょ?」
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