▼ 5.きみを呼んでる
「ぼくは──実なんだ」
突然の話の内容に、頭がついていかない。
「実?」
「啄んでもらうのを、待っている、木の実だ。次の──そうだな、最後の、この木に、なるのかもしれない。それを、宿している」
よくわからない。セイは首を傾げる。ドゥロロは彼らしくないほど、すらすらと、一方的に話を続けた。
そして、ふと、枯れ果てたその木を見上げる。
「あの大木から出来た実だ。ぼくもまた、同じような木になるだろう。──でも、もう、存在しないんだ。きみ以外には、きみと同じ《種》、木の糧は」
「もう、いい」
止めようとするが、ドゥロロは聞かない。今日は、やけに喋る。いつもより、淡々と。
「ぼくはね、生まれたときから木と人間の、どちらかを選ばなければならなかったんだ。木を選べば、ぼくが滅び、人間を選べば、やがてこの森が滅びるだろう。
実はね、滅びたように見えても、あの木はまだなんとかここを支えてくれてるんだ。でも、もう、本当にギリギリだ。ほとんど、力がないよ。
もし、完全に朽ちたら、交代するか、ここを滅ぼすか、しかない。──ぼくだって、人間で在りたかった。でも、《種》が一人でも生きる限りは、それを糧と見なすぼくの中の木は、成長し続ける」
「なんの話……わからないよ、お前は、人間なんだろ? そうだ、フレネザは、彼女はどこだよ。戻ったのか」
「──さあ?」
「さあって、なんだ」
ドゥロロはとぼけているわけでもなかった。
ただ真顔で、答える。
「いなくなったよ」
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