▼ 5.きみを呼んでる
その頃、セイは、いつまでもそこにいるような思いで、森の奥に在していた。木の根元のそばに来たはいいが、どうもできずに、呆然と座っていたところ、全ての耳が、突然、聞き慣れた言葉を聞き取った。
全て、と感じたのは、耳から脳にかけて、同時に、めり込むような衝撃が襲ったからだ。
「痛っ……」
どのくらいぼんやりしていたかはわからないが、内心では、かなりびっくりしてしまった。
誰かが、何かが、呼んでいる。
それを自覚したとき、変に動悸がした。苦しい。喉が乾いてきて、ふらふらと水場を探す。
ほとんど無意識に、奥へ奥へと、続く道を選んでいく。
一面が、様々な葉の、緑色だった。
生えている植物などから、水が有りそうな場所を冷静に判断し、分かれ道を、ひたすらに歩いた。
──そうして、しばらく行ったところで、滝を見つけた。
やっと着いたところで忘れていた疲れが、一気にやってきた。眠っていたばかりなので、眠くはなかったが、足を動かすのが怠い。
自身を励ましながら、ゆっくり進む。
「水、水だ……」
その滝は、ざあざあと水を長し、大きな岩を打ち続けていた。ひんやりした冷気が、少し離れた場所からも伝わる。
近くまで来て、浴びようとしたときに、何かを忘れていると気付いた。
水に関する何かだったと思う。それを、誰かが言っていたと思う。
しかし、喉が乾くので、後で考えようと思った。
体が火照ってあつい。水溜まりになっているところに、そっと足で触れてみる。
そのときだった。
じわじわと、血管の一つ一つを縛り上げられているような痛みが襲った。
それは、燃えるような、冷えるような、今まで感じたことのない、恐怖だ。
「くるしい、くるしい、くるしい、くるしい……」
呻く。体を打ち付けて倒れた。痛い。苦しい。
視界が揺れる。光が散る。ぐるぐると幾何学的な模様が頭を巡る。
「──セイ、セイなんだね?」
聞き慣れた声が、そのときになって、ようやく、すぐそばで届いた。その声は、驚くほど、はっきりと聞き取れる。
目が虚ろで、息が荒い。
走って来たのだろうか。
そして、いつ、ここに、来たのだろう。
「なんで……」
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