▼ 5.きみを呼んでる
一日経っても帰らない子供たちを、多くの民が不思議がった。そして、噂しあう。森の外では、大人たちによる捜索が続けられていた。
ひとつの結論に、誰もが思い当たるが、誰も、それを口に出来なかった。
頭に靄がかかったようになり、そのように口を開く気にはなれない。そもそも、誰も、それを告げる勇気を持たない。
悲劇の歴史を知る彼らだからこそ。
捜索の範囲は、見つかるはずもなく、限られていた。
□
──その頃の院長室には、二人の男の姿があった。
細身で初老の、険しい目付きの者と、若く、髪を両分けにした者だ。
「──院長。アレがいなくなってしまったそうですね。しかも、本格的に、見失った。今回ばかりは、私も庇いきれない」
「私の責任だ」
院長が、横に長い机の上で、頭を掴むように抱える。
男は、じっとそれを見下していた。
「で、院長。どうして、外出許可を与えたのですか」
「違うんだ、迎えの者が、勝手に……」
「──迎えの者?」
「橙の髪をした、子どもだ。我々は、操られたようになって、それで」
「……残念です、あなたの口から、そんな言葉を聞くとはねぇ」
「嘘じゃない、本当に、見たんだ。抵抗出来なかった!」
院長が必死に釈明するが、男は無表情を貫くだけだった。
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